いかえもん

泥の河のいかえもんのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.8
原作もよいですが、映画もとてもよかった。
とても悲しく、暖かく、でも苦しい、そんな時代をとても丁寧に描き出した映画でした。加賀まりこさんの美しさも息をのみました。思わず、綺麗…!と声が出てしまいました。

戦後約10年、大阪の道頓堀川の下流の川岸でうどん屋を営む夫婦とその子供信雄。ある日、川の向こう側に小さな船が着く。そこには、信雄と同い年の男の子とその姉、そして母親が暮らしていた…。

どう感想を書いたらいいかわからないくらい胸にくる映画です。

この映画を観てから、丁度のぶちゃんたちと年齢も近く、大阪出身の母にちょっと話を聞いてみました。母曰く、「うちもかなりの貧乏だったけど、船で暮らすというのはやっぱりさらに貧しい家だったんだろうと思う。船は家賃がいらないから。同級生にもお父さんと二人で船で暮らしていた友達がいたけれど、お風呂にもほとんど入っていなくて、学校の給食が唯一の彼の食事だったみたい。いつもお腹がすいているから、水をがぶがぶ飲んでたのを覚えてる。ある日その子のお父さんが亡くなってしまい、遠くの孤児院に行くことに決まったの。その時、担任の先生が、クラスの保護者の人に服や下着などを持ってきてしてほしいとお願いして、みんな新品の服や下着、お菓子などを持ち寄ってね。先生はその子を自宅に連れて帰って、銭湯に連れて行って、背中を流してあげながら、涙が止まらなかったと話してた…。」と語ってくれました。

この話を聞いて、「泥の河」はフィクションだけど、実話に限りなく近いと思いました。河のこっち側の岸で暮らすのぶちゃんと、向こう側の船で暮らすきっちゃん。子供同士の交流が純粋であればあるほど、涙がこぼれそうになるほど胸が苦しくなる。のぶちゃんの両親がきっちゃんたち姉弟に優しく接したり、口さがない大人たちから守ろうとしたり、ぎんこちゃんが貧しいながらも礼儀正しくしっかりしているのを見ながら、上手く言えないけど、何か失われつつある大事なことを思い出すような気がしました。
こういう時代を経て、今の日本があること、雨露をしのげる屋根のある家に暮らし、毎日食べるものや飲むものに苦労することもない、それが普通であることがどれほどありがたいことなのか、深く考えさせられました。

ぜひ多くの人に見てもらいたい映画です。