たく

野のユリのたくのレビュー・感想・評価

野のユリ(1963年製作の映画)
3.7
シスターの集落に立ち寄った黒人男性が、彼女たちの悲願である教会建築に協力していく話。本作がブレイクのきっかけとなったシドニー・ポワチエが、黒人初のアカデミー主演男優賞を受賞した記念すべき作品。監督のラルフ・ネルソンは本作に建築会社社長の役で出演してる。タイトルの「野のユリ」は劇中で引用されるマタイによる福音書にある言葉で、私欲に走らずありのまま存在することこそがその人の輝きであることを意味してる(シスターが賃金の支払いを渋る言い訳なんだけど)。

放浪の旅をしてたホーマー・スミスが、車の故障をきっかけとしてドイツ系のシスターたちが住む集落にたどり着く。ここでスミスを見たシスターたちが色めき立つシーンに「白い肌の異常な夜」的な展開が頭をよぎって不安になった。スミスが黒人であることから「ゲット・アウト」も想像した(映画の観過ぎも良くないね)。スミスを神の遣いと信じて疑わないシスターの長が、彼を口説いて長年の悲願である教会建築に協力させていく展開で、スミスもここを離れると口にしつつも何だかんだ協力してあげる人の好さを見せるのが微笑ましい。

中盤でスミスが披露する「エイメン」の歌が魅力的で、「天使にラブソングを…」ばりのシスター達のコーラスに、スミスが即興的な合いの手を入れていくノリの良さが楽しかった。やるからには一人で教会を完成させたいスミスの地道な作業を見守る地元住民が、やがて自発的に協力し始めるあたりが胸熱で、その中心となるのがメキシコ人なのが黒人と移民というアメリカ社会におけるマイノリティとしての共感が基になってるように思えた。使命を果たしたスミスが誰にも告げずに去っていく姿と、彼を引き留めずに黙って見送るシスターに、スミスが本当の「野のユリ」になったことが窺えてジーンと来た。
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