ただでさえファスビンダー映画は説明がないのにこの映画ときたらドイツのWW2戦前から戦後までをたった2時間で駆け抜けるものだから映像は暴走機関車のように爆走しすぐに誰がどこで何をやってるのかわからなくなってしまう。でも実際にその時間を生きた人にとってはそんなもんかもしれないな。ドイツの躁の時代。走り続けないと自分たちが狂気に陥っていることに気付いてしまうから、気付かないように走り続けて破滅した時代。セイレーンのようなリリー・マルレーンの歌声に導かれてソ連兵に撃ち殺される兵士(リヴィの夫になった人)の笑い死にはその象徴のようにも見える。
『マリア・ブラウンの結婚』のアザーサイドのような趣もあるがこちらの方がメロドラマ趣味は露骨で大袈裟な劇伴やどぎつい照明が映画の虚構性を際立たせる。あたかもそんな夢など存在しないのだと言わんばかりに。ナチス・ドイツに翻弄され迫害され利用されて流れるままに、それでも戦争の時代を生き抜いたリヴィの最後は、夢からの覚醒と思えば、夢に殉じた『マリア・ブラウン』と違って、ハッピーエンドと言えるのかもしれない。『マリア・ブラウン』もあれはあれでハッピーエンドかもしれないけれど。