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アフター・アワーズのSPNminacoのレビュー・感想・評価

アフター・アワーズ(1985年製作の映画)
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深夜のNYで不条理な出来事に遭遇し帰れなくなる男。タイトルクレジットから急ぎ足で、最初だけロマコメみたいに始まるが、ロザンナ・アークウェットはじわじわ変だし、ほんの脇役も濃すぎるし、何故かひと気のないダウンタウンは時空がねじれたようにシュール。
冒頭のオフィスで同僚が言う、「一時しのぎ」。主人公グリフィン・ダンはその場しのぎのつもりでどんどん身動きできなくなる。竜巻のようなスピードで走るタクシー、風にさらわれる20ドル札、やたら渡される他人の家の鍵。彼はおうちに帰りたいのに迷子になったドロシー。本を読んでたら三月ウサギに誘われて、忙しなく時間を気にしながら、支離滅裂な人ばかり出てくる「不思議の国」に堕ちたアリスでもある。
スコセッシだけど、デヴィッド・リンチに限りなく近い印象だ。というか驚くほど共通項が多くて、1986年の『ブルー・ベルベット』と85年のこれはまるで双子!『オズの魔法使』とかミッドセンチュリー要素とか、昼間の顔を一皮めくった闇に潜むカオスでビザールな悪夢のヴィジョン(どちらもケネス・アンガーの影響かな)。スコセッシは闇に引き摺り込む道具に耳じゃなくて電話の受話器、流れるのはぺギー・リーの“Is That All There Is?”(こうして聴くと禍々しい曲だ)。この2作、もうどこかで比較されてるよね?
けど、リンチより泥臭いというか、わかりやすくまとまってるというか。夜が明けて帰り着いた家は皮肉なオチ。地獄の門が閉まり、また開き、悪夢も現実も逃げ場などないのだった。最後のカメラワークが如何にもスコセッシ。
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