にしやん

グブラのにしやんのレビュー・感想・評価

グブラ(2005年製作の映画)
3.8
「細い目」の続編や。演じている俳優も同じ。オーキッドの話とそれとは全く別の物語が並行して描かれている。イスラムの聖職者が犬をいたわる衝撃シーンやとか、貧困、売春婦やエイズにまつわる話も盛り込まれとって、4(3?)部作の中では一番社会派的に色彩が強いと思たな。

映画では、オーキッドはすでに結婚しとって、おとうさんの入院をきっかけに、『細い目』で死んだジェイソンの兄と出会うねんけど、同時に夫の浮気に直面するっちゅう話や。オーキッドは、ジェイソンの死後、たぶん幸福な生活を送ってたんやろな。ジェイソンの死を調べたり、家族と会うたりもせえへんまま、彼のことは彼女の中では自然に美しい思い出に変わってしもたんやろ。ところが偶然にも彼の兄と出会った時に、同時に夫の浮気という問題に直面して、ジェイソンとの思い出が彼女の前に蘇ってくんねん。それがごっつぅ彼女を揺さぶるねんけど、それはもう二度と戻ってこうへん世界や。切なさやとかやりきれなさが何とも辛いな。

あともひとつ、オーキッドとその家族の話とは平行して、もっと貧しい人々、若い聖職者の家族と娼婦たちの話も描かれてるわ。他作品と同様に、ユーモアやギャグも入れ込まれてんねんけど、4部作の中では、最も重く深刻で社会派的な側面の強い映画やわ。とりあえずハッピーエンドになるもんは、ホンマに少のうて、殆どの登場人物は、皆それぞれいろいろ深刻な問題を抱えてて、その問題は映画が中では何も解決せえへんし、彼らはその後もそれらの問題を背負って生きていかなあかん。彼らが抱える問題の原因は、個人的なもんだけやなく、マレーシアが抱える政治的、経済的、社会的、宗教的な原因もあるわ。イスラム聖職者の夫婦かて、娼婦たちを差別せんと、いろいろと助けたりしてるけど、ホンマの意味で彼女等を救済することはでけへん。ジェイソンの兄、アランがブミプトラ政策下の中国系の立場について、この国はマレー系以外は住みにくいということを吐露するシーンがあんねんけど、それかて、国民の多数のマレー系のイスラム教国であることを最優先にしてるマレーシアの問題をはっきりと語ってるわな。

映画最後のほうで、それぞれの登場人物が仏壇の前で祈り、イスラムの礼拝服で礼拝し、キリスト教会で祈るシーンが交互に映し出され、それぞれの宗教の祈りの言葉が重なっていく演出があんねん。このように、現実にはありえへんけど、いつかは現実になるかもしれへんという願望を込めた、もう一つのマレーシアの姿が、この監督らしく優しく且つ挑戦的に描かれてたとこは、殆ど問題の解決が全く見えへん一方で、絶望よりも希望が感じられてめっちゃ良かったわ。

一点だけ。並行して走る二つのプロットってどっか重なってたかな?イスラムの礼拝の呼びかけが聞こえてたとこだけ?もうちょっとちゃんとクロスさせても良かったんとちゃうかな?どやろ?

それとエンドロールの後、これは反則。切なすぎる。正直泣けるな。鳥肌立ったわ。エンドロールの途中では絶対に席立ったらアカンで。
にしやん

にしやん