レオピン

点と線のレオピンのレビュー・感想・評価

点と線(1958年製作の映画)
3.8
顔の上を這うヤシガニ。何度か夢に出てきます。カニ恐怖症の人は要注意!

ただの心中に思われた事件だが老刑事の目には不可解な点が多すぎた。そこへ東京からやってくる若い刑事。警視庁では役人がからむ大規模な贈収賄の内偵捜査が進んでいた。

この話、明らかに昭和29年(1954)の造船疑獄がベース。後に首相となる佐藤栄作の収賄容疑を法務大臣の指揮権発動で任意捜査に変えさせた。劇中でも安田が軽い調子で「指揮権発動といきますか」という台詞があった。この頃から民から官への過剰な接待、賄賂。偽報告。何でもありの光景が透かし見える。

三原刑事のごって若手らしい台詞

最高の学府に学んだヤツに限って人を利用する才知に長けていると思いませんか
利用するだけ利用していざ事がバレにまわると今度は自分の地位を保つために部下の死ぬことを願うような連中です

まさに! こんなところが社会派清張さんの作品を見る魅力。

ちょっと三原刑事の大根にも見える演技に困惑したが、だんだんと新米刑事らしい硬さが一直線に捜査を進めていく行動とも相まってなんとなくおさまった。
老刑事には加藤嘉。料亭で若い三原のアツい口吻にあてられ鳥海刑事の瞳にメラメラ炎が灯る瞬間。こんな男前でキレイな加藤嘉初めて見たーw

安田役の山形勲には悪の魅力がたっぷり。当時42、3歳でこの貫禄。機械工作会社の社長。身体に障っても知らんぞと妻に接吻する時のアノ勢い。あれは中々出せません。

結核病みの妻に高峰三枝子。役柄では28だが当時40歳前。熱帯魚と同人活動に癒しを求めている。最後のビールグラスを口にする夫を見る目。駅名をつぶやきながら、、すごすぎた。

三原刑事の南廣はセブンのクラタ隊長。「俺の健康クロスタニン」の人。
同僚の土屋刑事に河野秋武。空港での「ないんだよっ」「もしもし三原さん もしもしっ」はぜひ真似したい。訛りがポイント。

収賄側のキャリア官僚石田部長に三島雅夫。小男ぶりが憎々しい。築地小劇場出身。
その部長の命で偽アリバイ作りに奔走する佐々木課長に増田順司。取調室でのあの異様な汗のかきかた。
生け贄となる佐山課長補佐に成瀬昌彦。

料亭の仲居に元宝塚の月丘千秋。海風荘の女将に風見章子。「2号さんじゃないんですか」
福岡の料亭の女中に楠トシエ。調子に乗り過ぎて鳥飼刑事に追い出される。この人黄桜CM「かっぱの唄」の人。元祖コマソン女王。「ぽんぴりぴん」の人。
安田の愛人に奈良あけみ。

終盤、犯人逮捕に向かう列車の中で4人の刑事が事件を振り返る。亮子という女に同情を示す男たち。あわれですなぁ、、
だが三原刑事だけは、
僕はこの事件に出てくるどの人間にもまったく同情する余地はないと思う。みんな許しがたい奴らだけども、その中でも亮子という女は絶対に許せないヤツですと言い放つ。

いやいやお時さんは完全にとばっちりだろ。アンタ大丈夫か。最後まで若さで突っ走る傾向。その直後の亮子の顛末を見て何を思ったのか。

この世の悪にも事情がある、ということが分かって段々鳥飼刑事みたいになっていく。三原刑事が枯れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

今もあんまり変わらない権力の陰で泣かされる下積みの苦労、悲哀。『新聞記者』なんかよりも断然オススメです。

⇒毒婦映画ベスト級
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