塔の上のカバンツェル

レッド・バロンの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

レッド・バロン(2008年製作の映画)
3.6
ドイツ人の映画なのに、全編ドイツ訛りの英語で展開される第一次世界大戦映画。

実在のドイツ人エースパイロット、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンを描いた作品。

少しテンポが悪いし、恋人とのラブロマンスもお決まりである。しかし、ドイツ人の戦争観が垣間見える一品。

複葉機の活躍は、第一次世界大戦ならではで観た当時は新鮮だった。



今作の見所は何と言っても第一次世界大戦時の航空戦、更に言うなら格闘戦である。

第一次大戦初期から、航空機は戦場に投入されていた。
最初の任務は、主に戦場の偵察飛行であり、当時は武装はなかったため、敵の航空機とすれ違う際に挨拶を交わしていたほどである。
やがてお互いに拳銃などで撃ち合い始めるようになると、偵察機を撃ち落とす戦闘機や対地爆撃機など、様々な航空機が誕生した。
ドイツ軍はプロペラと連動した機関銃を装備したフォッカー・アインデッカーE.Ⅲを配備。
航空機産業では、ドイツを凌駕していた仏軍であったが、"フォッカーの懲罰"と呼ばれる1915年の劣勢に対して、航空機で編隊を組んで対抗するにようになり…と、航空機戦闘における基礎が築かれていった。

戦闘を通して戦闘機戦術も洗練されていった。
インメンマン旋回といった急降下によって一撃離脱する戦法や、14機編隊で構成される駆逐戦闘飛行中隊を編み出したベルケなどのエースも生まれていった。
このベルケの弟子が、本作の主人公、マンフレート・フォン・リヒトフォーヘン、通称レッドバロンである。

リヒトフォーヘンは、1916年9月~1918年4月までに80機を撃墜した紛れまない撃墜王であったが、彼の宣伝された「空の英雄」としての側面よりも、後世の歴史家は1917年以降に連合国に航空優勢が傾きつつあった中で、その指揮能力を高く評価している。

本作でも彼の戦闘中隊と、彼自身のパイロットとしての疲労や終わりなき戦闘への悲観が描かれるわけだが、一貫してその高潔性を強調される。

第一次大戦の航空パイロットは、戦争がロマンを失い大量破壊と動員によって、システムが戦争を動かすようになったこの時代において、最後の騎士道精神の残り香と言われていた。
騎士道精神に則って、航空機パイロットは相手に敬意を持って、戦っていたのである。
冒頭の敵のオーストラリア軍パイロットの葬儀に花を手向けるシーンや、仏軍パイロットと交流を交わす場面など、西欧騎士のような出立ちが描かれるわけで。
一方で、地上で泥に這いつくばり、腐りながら死んでいく塹壕戦との対比が、本作が描くこの戦争の皮肉ではないだろうか。

親友のユダヤ人のパイロットの下りは創作らしいが、第一次大戦時にはかなりの数のユダヤ系ドイツ人も動員されていたので、この辺はドイツ人が描かざるを得ない点だったのかなと。

航空機に施された迷彩の色とりどりな戦闘機が入り乱れて戦う航空戦や、撃墜される観測気球(絶対に嫌な職場第一位)、夜戦戦闘や、仏軍の爆撃機など、第一次大戦の航空戦の見所を押さえた中々の良作だと、個人的には思いました

【参考文献】
「第一次世界大戦の歴史大図鑑」創元社
「戦闘機大百科-第一次大戦・戦間期編-」アルゴノート社