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ヴィクトリア女王 世紀の愛のodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【プリンセスの孤独】

原題は"THE YOUNG VICTORIA"、つまり若い頃のヴィクトリアを描くのが眼目の映画です。

一般にはヴィクトリア女王というと、19世紀という英国の国力が絶頂期にあった時代に君臨した女王であり、また42歳で夫君に先立たれてからさらに40年間も君主の座にあったため、どうしても中年の寡婦、或いは老婦人のイメージが強くなってしまうわけですが、この映画はむしろ、若い孤独なお姫様がいかにしてアルバートとの愛を紡ぎ立派な君主になっていくかの序盤を描いているところがミソなのでしょう。

「女の子は誰でもプリンセスに憧れるけど」で始まるナレーションがなかなかイミシン。実際にプリンセスとして生まれてしまった女の子は、決して華やかで面白おかしい暮らしをしているわけではなく、孤独で制約が多く、なおかつ王侯貴族間や政治家同士のごたごたに巻き込まれやすいのです。この映画はそうした「君主の孤独」を表現していて説得的です。

ただし、全体としてみると複雑な人間関係が必ずしも分かりやすくないし、またアルバートとの恋愛模様も一般男女の恋愛とは違って、或る程度敷かれたレールの上を走っているわけなので、これでも実際よりは映画チックにしたのでしょうけれど、やはり恋愛映画らしい華にはやや欠けると言わざるを得ません。

ヴィクトリア役のエミリー・ブラントとアルバート役のルパート・フレンドはいずれも適役ですが、メルバーン卿の役をまだ若いポール・ベタニーに振ったのはどうでしょうか。史実ではメルバーン卿は女王の父親ほどの年齢であり、そうであるが故に若い女王を愛娘のように補佐し、また幼くして父を亡くしている女王も実の父親のように彼を慕ったということですが、この映画のメルボーン卿は若いので、むしろアルバートのライバルのように見えてきてしまいます。また、従来のしきたりを守れと主張し勝ちなメルバーン卿は、やはり或る程度年を取った俳優にやらせたほうがぴったりで、そうであってこそ若いアルバートが女王の夫君として改革に乗り出す対照性がきわだつようになったのではないでしょうか。

宮殿の様子などは実地に撮影したようで豪華ですし、宴会のシーンなども迫力満点です。ただ、女王を描いた映画としては、数年前の『クイーン』がプリンセス・ダイアナ事故死直後のエリザベス女王と首相と国民との三つ巴の緊張関係を見事に描いて傑作となっていたのに比べると、作品の性格が異なるとはいえ、ドラマとしての盛り上がりはもう一つだな、という気がしました。
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