こたつむり

危険なメソッドのこたつむりのレビュー・感想・評価

危険なメソッド(2011年製作の映画)
3.0
分析心理学の創始者、ユング。
彼の患者であるシュピールライン。
精神分析学の父、フロイト。
医師と患者。先駆者と後継者。三者三様の想いが絡み合う人間模様と、脳細胞が作り出した電気信号の向こう側に存在する“こころ”を無色透明な絵の具で描いた物語。

クローネンバーグ監督の演出は。
科学の世界で原理を追求するが如く、無駄なものを削ぎ落とす手法。だから、物語を味わうために自然と前のめりになるのですが、その反面、彼の要求するレベルに頭が付いていかないと振り落とされます。本作は僕にとって、その後者でありました。

表面上は愛憎の物語なのです。
医師の領分を越えて患者に向き合うユングと。
彼を慕うシュピールライン。
ユングには妻子がいますので、いわゆる不倫の関係。通常ならばドロドロの人間模様が描かれると思うのですが、そこはクローネンバーグ監督。シュピールライン演じるキーラ・ナイトレイの表現力は鬼気迫るものがありますが、それ以外は淡々とした演出なのです。

しかも、精神医学とか心理学とか。
華美な演出に拘ろうと思えば、幾らでも装飾することが出来るジャンルなのですが、飛び交う専門用語も限定的で、寧ろ“専門的な映画ではない”と言っているかのよう。監督の無駄な部分を削ぐ作風からしても主眼は別の部分にあると勘繰ってしまうのです。

また、ユングの功績を描く史実としても、あまりにも情報が足りないですし、物語の中で描かれる期間も限定的です。だから、歴史物…として楽しむにしては中途半端なのです。

では、監督が描きたいものは何なのか。
と、考えたときに。
ユングとフロイトの関係性が物語の中で浮いていることに気付きました。この二人は友人同士であり、一時的な師弟関係を結んでいるのですが、本作ではそれ以上の部分があるような“暗喩”に満ちているのです。特に二人の距離感については、食事を行う場面が顕著だと思います。

だから、本作は。
目に見えない“こころ”を描くために、目に見えない“暗喩”に満ちた物語なのですね。そして、その“暗喩”を解きほぐすためには、それなりにフロイトやユングが遺したものに触れておいたほうが楽しめるのでしょう。

というわけで。
彼らが遺したものに面白みを感じない自分としては、ちょいと不向きな話でありました。
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