かずぽん

カインド・ハートのかずぽんのネタバレレビュー・内容・結末

カインド・ハート(1949年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

監督:ロバート・ハーメル(1949年・英・101分・モノクロ)
原題:Kind Hearts and Coronets (優しい心と宝冠)

「コメディ」と言っても捧腹絶倒の類ではなく、しいて言えば「ブラック・コメディ」(シニカルな笑い)だろう。

さて、主人公のルイ(デニス・プライス)は、「死刑執行」を待つ身である。彼は、十代目チャルフォント公爵となったタイミングで殺人の罪により逮捕された。
そして、明朝8時までの残された時間を『事件までのあらましを死刑執行前夜に記す』ことにしたのである。
その回顧録によると彼の父はイタリア人の歌手で、母は七代目チャルフォント公爵の娘だった。身分違いの恋は認められず、二人はロンドンに駆け落ちし、5年目にルイが生まれる。それと同時に父は心臓発作で他界してしまう。
生活に困窮した母は実家を頼って手紙を出すが、一度も返事は来なかった。母は懸命に働いてルイを良い学校にいれ、幼い彼には自分の実家の系図を覚えさせた。母が亡くなる時のたった一つの望みは「チャルフォントの墓に入れて」だった。しかし、それも拒絶されたのだった。
ルイは、生存している親戚を家系図から切り取り、彼らをターゲットにすることを誓い、復讐を企てる。

ルイの母は女系でも相続できる公爵家の出身だったが、邪魔になるバスコイン家にはまだ8人が生きている。その中には、意地悪な人物も、性格の良い人物もいたわけだが、この際全員に死んでもらおうと、あの手この手で殺していくのだ。
その人物たちの年齢も老いから若きまでいるのだが、皆そっくりな顔だちで、よくぞここまで似ている役者を集めたものだと思いながら観ていた。ところが、クレジットを観てビックリ。
殺される8人の人物を、アレック・ギネスが一人八役で演じているのだ。
レディ・アガサまでアレック・ギネスが演じていたと知って(確かに顔つきも態度も男勝りだとは感じたが)もう一度驚いてしまった。
当時、アレック・ギネスは35歳。殺された人物では、カメラ好きなヘンリー・ダスコインが丁度そのくらいの年齢だったのだと思うと、老牧師や九代目を継ぐ銀行家など、そのヨボヨボ具合が自然だった。

ストーリーが進みルイが逮捕されたのは、意外にも幼馴染みのシビラ(ジョーン・グリーンウッド)の夫を殺したという無実の罪だった。かつてルイのプロポーズを断って裕福な男との結婚を選んだのに、今度は落ちぶれた夫よりも公爵になったルイの妻になりたいと思ったのだ。しかし、ルイは彼が殺した従妹の妻との再婚が決まっている。恐らくは、シビラは夫の遺書を持っている筈で、それをルイの無実の証拠に出して欲しいなら結婚相手のイディス(ヴァレリー・ホブソン)を捨てろと迫るのだった。
しかし、絞首刑の朝を迎えても事態は変わらない。ルイが回顧録を書き上げ覚悟を決めた時、絞首刑中止の報がもたらされる。そして、釈放されて外に出るとイディスの出迎えの馬車と、他方にはシビラの馬車が待っている。さて、ルイはどちらの女性を選ぶのか?…と、そんな簡単なハナシではなかった。ルイの回顧録はまだ刑務所の中・・・・

主人公のルイを演じたデニス・プライスは、ハンサムではないけれど、死刑執行人が「さすが貴族だ。」と感心するほど落ち着き払って姿勢もよく、どこか上品である。しかし、髪型が「ムロツヨシ」に似ていると思った瞬間から私は彼が上品に振舞う度、軽やかにシビラとダンスを踊る度、可笑しくてニヤニヤしてしまった。
子ども時代の回想で学校の授業のシーン。教師から「十戒の6番目は?」との質問にルイが「汝、殺すこと勿れ」と答え、ついでに「7番目は男女の戒めです」と答えるのだが、本作ではその二つの戒めを破っているのが、まさしく意図されたブラックユーモアだと思った。
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