かずぽん

ニトラム/NITRAMのかずぽんのネタバレレビュー・内容・結末

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【一体どうすればよかったのか】

監督:ジャスティン・カーゼル(2021年・豪・112分)
原題:Nitram

本作は、1996年4月28日の午後、オーストラリア・タスマニア島ポート・アーサーで起きた大量殺人事件を題材にしている。事件そのものよりも犯人マーティン・ブライアントの子供時代から、事件当日までの経過に焦点が当てられている。
因みに、タイトルの「NITRAM」は、犯人の名前の綴り(Martin)を逆から読んだもの。この蔑称で呼ばれることに、彼は傷ついていた。

冒頭は、主人公マーティンの子供時代。家の中で花火に火を点け火傷を負って入院している。テレビの取材が来て、「もう花火には懲りてやめる?」の質問に「懲りたけど、花火はやるよ」と答えていた。
次のシーンは成長後のマーティン(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)。相変わらず花火で遊び、近所から苦情が来ている。マーティンの母(ジュディ・デイヴィス)は彼に手を余し、父(アンソニー・ラパーリア)は息子をありのままに受け入れようとしている。
冒頭のシーンでは、“懲りない子供”という印象だったが、成長後の彼からは違和感(普通ではないもの)を感じた。会話は成立するが自己中心的で、感情をコントロール出来ていない。医者から処方された薬(抗うつ薬)に(特に母親が)頼っている。
父は息子と一緒に民宿を経営する計画を立てており、気に入った物件を見つけた。銀行の融資も決まり、あとは契約の事務手続きをする段取りになっていたが、売り主にもっと良い条件を提示した他の夫婦の手に渡ってしまった。父はすっかり意気消沈してしまう。父もマーティンも「横取りされた」と感じている。

マーティンは、サーフボードを買うお金が足りなくて、芝刈りのバイトを始める。偶々訪ねた先に、元女優で裕福なヘレンという中年女性がいて、仕事をさせて貰うことになった。両親との生活に息苦しさを感じていたマーティンは、自分に理解を示すヘレンに依存し勝手に同居を決める。
マーティンの問題行動に気づいていたヘレンだったが、彼女の寛容さが仇(あだ)となって亡くなってしまう。マーティンが彼女の家や大金を相続したことも「事件」へと繋がって行く要因になった思う。
ある日、スコットランドの小学校で銃乱射事件が発生したとのニュースが報じられる。無差別殺人の犯人とされる男は「はみ出し者、孤独者、変わり者、奇人・・・」と描写され、マーティンは自身とその犯人を重ね合わせたのではないだろうか。そして、同様の事件を起こした。
35人を死亡させ、23人を負傷させたたポート・アーサー事件である。

劇中、マーティンが銃を買いに行く様子も描かれていたが、それはスコットランドの小学校の事件が起こるより前だった。この時点での問題は、銃器店側がマーティンが銃免許を持っていないことを知っているのに売ったことだ。
この事件を機にオーストラリアの銃規制が見直され、事件の12日後には全州が銃規制法に合意したという。このスピード感は素晴らしいと思うが、問題は「銃の規制」だけだろうか。
実際の事件の犯人マーティン・ブライアントは、知能テストの結果は平均以下だったそうだ。しかし、事前に現場を下見をしていることなどから、精神鑑定では「責任能力あり」と判断されたそうだ。
世の中にマーティンのような人物はごまんといるだろう。
マーティンの場合は「銃殺犯」になったけど、家庭内暴力になったり、引きこもりになったり、クスリ漬けで自由に行動できないようにされたり、色んなケースがあるのだろう。
精神不安定、コミュニケーションが苦手、感情のコントロールが出来ない。それが成長のどの段階で顕著になり、親や家族などに認識されるのか分からないけれど、彼らはどうにかしたいと考えたはずだ。病院に行ったり、カウンセリングを受けたり、本を読み漁ったりして。
改善も見られず、策も無く、途方に暮れるしかないのだろうか。父は、母は、教師は、医師は、一体どうすべきだったのだろうか。それは、これからもずっと考えて行くべき課題なのだと思う。
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マーティンを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、難役を見事に演じ切ったと思う。正常と異常の境目、ボーダー上にいる主人公を見事に体現してみせた。
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