TAK44マグナム

ツールボックス・マーダーのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ツールボックス・マーダー(2003年製作の映画)
3.2
使用上の注意?
そんなの無視してドリルで脳天貫通DEATH!


電動ドリルやネイルガン、ハンマーに丸ノコなどの工具を凶器に、古びたアパートを血に染める謎のマスク殺人鬼が暗躍するスラッシャー+オカルトのゴアホラー。

監督は「悪魔のいけにえ」のトビー・フーパー。
冒頭、殺害される女性役でロブ・ゾンビの嫁さんであるシェリ・ムーン・ゾンビが出演、チョイ役ながら美貌と存在感を放っております。


スティーブとネルの若夫婦が越してきたのは何やら曰く付きの「ラスマンアパート」。
かつて、オーナーのラスマンが失踪をとげており、現在はそこら中を修理しなければならないほど劣化の激しい建物でした。
安い借り賃に惹かれたネル達が、想像以上の安普請に辟易とし始めた頃、マスクに黒いコート姿の殺人鬼が住人を密かに惨殺し始めていたのです。
友人になった住人の行方がわからなくなったことをキッカケに、ネルは黒魔術が関係するアパートの黒歴史に切りこんでゆくのでしたが・・・


暗い影をおとす古アパートという舞台設定が雰囲気あって良いですね。
総じて不安を煽るような絵作りがなされています。
途中まで正体不明の殺人鬼はその目的もまったくもって分からず、作品全体を包み込む不条理な感覚はトビー・フーパーの面目躍如といったところでしょうか。

ただし、どこかチグハグな印象も受けるのは、殺人鬼がこだわる「工具を使った殺人」が、オカルティックな部分とは水と油のように融け合わないからではないかと。
たしかに工具は凶器としては優秀ですが、他作品と差別化するほかの理由が見当たりません。
劇中でも、工具を使う理由に特に言及がないんですよね。
ひとつ、無理やりにこじつければ怪しい人物を殺人鬼にミスリードさせるため、という作劇上の理由があるのでしょうが、これがまたバレバレなのでミスリードされようが無い(汗)
あとはもう、殺人鬼の趣味嗜好だと思うしかないのかもしれません(苦笑)

想像するに、本作はオカルトなテイストのホラーとして書かれた脚本がまずありきで、そこに78年製作のスラッシャーホラーの古典である「ツールボックス・マーダー」の「工具を使うマスクの殺人鬼」という要素を付け足したのではないでしょうか?
一応、78年度版「ツールボックス・マーダー」のリメイク作品という事になってはいますが内容的にはかなり違ったものになっているらしいので、(よくある話ですけれど)所謂ニコイチ映画として陽の目をみたのではないかと勝手に想像してみました。
まったくの的外れでしたら御免なさい(汗)


アパートに隠された謎については、個人的には意外な展開で楽しめました。
突拍子も無いというわけでもありませんが、現実的な世界観から激しく逸脱することなく、ダリオ・アルジェント風味?に異世界を描けているのは悪くありません。


しかしながら、観ていると疑問が次から次へとわいてくるのも事実。
「腐臭がするだろうに誰も気がつかない」
「相当数の住人が行方知れずになっているのに事件になっていない」
少なくとも、この二点は誰でも引っかかりをおぼえると思います。
何十年もの間、殺戮が繰り返されているのにネルが疑うまで誰も気にしなかったなんてどう考えてもおかしい。
もっと噂話が大きくなっていても不思議ではないし、他にもおかしな点はたくさんあるので、つまりはいい加減な設定がまかり通っている映画という事になるのです。
ネルが秘密に気付く一連の流れなども大雑把なので、いまいちよく分からないし興奮もおぼえません。
緊迫感があるようで、どこかフワフワと地に足がついていない感覚。
それは、細やかな思慮を欠いた粗い脚本や演出がそもそもの原因なのでしょう。

まぁ、百歩ゆずってオカルティックな部分には目を瞑るとしても、スラッシャーホラーの目玉となるゴア描写がおとなしめなのはいかんともし難いと言うか何と言うか・・・。
脳天貫きドリルやハンマー滅多打ち、それからデカいペンチで背骨切断・・・
といった折角の狂ったゴア描写を直接見せてくれないのはストレスたまります。
耐性が無い方には丁度良いとしても、もう少し見せ方に工夫が欲しいのは変わりません。
丸ノコで頭チョンパ!と硫酸で顔面ドロドロだけは比較的じっくりと鑑賞できましたが、問答無用でグロかったのはそこぐらいですかね。

淡白な殺害シーンとは裏腹に、死体のプロップにはやたらと凝っている印象をうけました。
腐り具合や、真っ二つに引き裂かれた姿は素晴らしい出来栄え。
でも、その引き裂かれるところこそ、多くのホラーファンが見たいと望んでいる場面なのに実に勿体ない。
死体のクオリティにこだわるのも良いですけれど、やはり花形である殺害シーンにもっとこだわって欲しかったな、というのが本音です。

ついでにぶっちゃけ書くと、巨大電動ノコギリが「悪魔のいけにえ」のチェーンソーなみに活躍してくれていたら評価があがったと思うのですがね。
先述した真っ二つの死体はこのノコギリの仕業だと思うのですが、真っ二つにされた場面を先に見せておかないと、ラストの主人公の大ピンチが大して盛り上がりません。
「主人公もあんなんなっちゃうのか〜?!」
というドキドキハラハラが肝心なのにねぇ・・・。


かなり文句を並び立ててしまったような気がしますが、ホラー映画界のスーパースターが監督しているわけなので単なる駄作と切って落とすには忍びない作品でもあります。
雰囲気で魅せる、昔のゴシックホラーを観るような感覚が望ましいのかもしれない、そんな一作。
主役はヒロインでも殺人鬼でもなく、「アパート」です。


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※因みに、ジャケットのキャッチコピーは、ほぼほぼ詐欺です(汗)