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トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーンのTAのレビュー・感想・評価

4.5
精神病院モノとして密かに上位に君臨する隠れた傑作。

 エクソシストの原作者で同シリーズ三作目の監督も務めたウィリアム・ピーター・ブラッティの初監督作品。ベトナム戦争で心を病んだアメリカ軍の兵士達を収容する山奥の精神病院が舞台の人間ドラマです。
 『エクソシスト』にドはまりした頃に、監督の名前から興味本位で観たのが付き合いの始まりでした。
   
   本作の演出はエクソシスト3と同じ毛色を持っており、物語は始終静かなトーンで展開しつつ、徐々に明かされていく主人公の素性、そして後半に用意されたインパクトのあるバイオレンスシーンとそこに至る経緯によってカルト的な人気を獲得している隠れた名作と言えます。
   終盤のバーでの遣り取りを除き、ほぼ全編通じて登場人物の感情の機微が各々の“語り”によって実に繊細に描かれており、これがこの監督の作風なのだと感じられました。更にエクソシスト3で印象的だった定点カメラによる演出は今回コメディ部分に使用されていて、独特のシュールな面白さがあります。
   
   前半はキャラクター紹介として精神病患者特有の意味不明のやり取りが笑いを誘いますが、中盤以降になると、患者たちと禅問答が始まったと思っていたところで彼らの口から突然意表をつく台詞が発せられます。見た目では到底理解しえない傷ついた者たちの心の内が明かされるにつれ、彼らもまた魅力的な"人間"に見えてくるのです。

 ケーン大佐の素性は見進めていくと早い段階で察しのつくところではありますが、隠された事実がそれだけではない所も最後まで興味を惹き付けるポイントであり、私たちの感情の琴線に触れる箇所でもあります。
 終盤に近付けば近づくほど、どこまでが狂気なのか一見して分からない印象的な言葉の遣り取りになっている仕組みも大変示唆に富んでおり、加えて解釈の余地をふんだんに残しているだけに何度も見返したくなるツボが刺激され、どうもその辺りが作風の割に強い中毒性を孕んでいるように思います。
   
 そして劇中に何度か挟まれる彼らの心象風景は一見してファンタジックで漫画的だけど、とても美しいんです。特にオープニングのロケット発射台の背後からせり上がる巨大な月のシーンや、月面で宇宙飛行士がキリストと向き合うシーンが印象的で忘れられません。
   ラストの件は全ての鬱屈した雰囲気を一気に塗り替えるお伽噺のような展開で、半ば強引さを感じしつつ不思議とすっきりした後味に変えてくれる演出で、思わず「そりゃ反則だよ~」って言いたくなっちゃいます...ニコニしながらね♪
   そしてまた定期的にDVDを回してしまうのです...*

   精神病院モノにはハズレが少ないというのはあながち間違っていないと思いました。
   個性的で複雑に練り込まれた秀作。
   観た後に誰かの感想が聞きたくなります*

【追記】
他の人のレビューを見たら、皆それぞれ長文で語っていて面白かった。
語りたくなる気持ち分かります*
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