真田ピロシキ

キャタピラーの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

キャタピラー(2010年製作の映画)
3.0
醜さを見れる映画。戦争で四肢と聴覚と声を失った軍神様として故郷に帰ってきた男とその妻。村の人々は軍神様と称えはするがその世話は妻に委ねるばかりで、家族ですらも妻を帰してなくて良かったと口にしててその徹底した自助を強いる姿は今もそう変わらない。食欲と睡眠欲と性欲だけの塊になった軍神様であったが、ある時から軍神様を村に連れ出し晒し物にし始めてから立場が逆転。DV野郎だった軍神様を叩き、セックスでは軍神様が中国で強姦してた女達の立場に自分を重ね合わせるようになっていて先述した自助同様に戦中を通して現代社会の風刺を感じ取れるように思えた。

戦争映画として見ると消火訓練してたり沖縄戦や東京大空襲の記録映像を挿入されたりしているが、それより人間の業が描かれた映画として強く映る。戦争が終わって軍神様に掌を返すか腫れ物に触るようになる人々でも描かれれば残酷さが印象深く残ったと思うが戦後の描写はほぼなく少しあっさりとしたように思えた。最早誇りとしてた軍神様ではないただの四肢欠損者が水面に写った自分を見て身を投げるラストはアホ右翼が好む軍神やら英霊と言った勇ましいだけでクソほどの意味もない妄言へのアイロニーが感じられ、知的障害者のおじさんが無邪気に「戦争が終わったぞー」と喜んでいたのも健常者が総じて狂っていた時代を物語っていて良い演出だった。ここで妻も晴れやかに笑っていたのは戦争と同時に重荷の夫からの解放も意味していたのだろうか。絆や愛なんて美しい言葉には決して行き着かせない意思を窺わせる。