このレビューはネタバレを含みます
本作はどう感じるのがフェアなのだろう。
冒頭、ユダヤ人狩りに勤しむナチの兵隊のシーンに続き、収容所のおそらく所長に就任した中佐の祝賀会の模様が描かれる。まさに権力者として虐殺する側とユダヤ人として理不尽に迫害される側の天と地。パーティに浮かれるものたちと人種差別による無慈悲な死へと追いやられる立場の明暗。
ラストはまさかの自分の息子がガス室で死んでしまうところで終わる。
中佐やその家族目線でみれば悲劇だが、ユダヤ人の目線でみれば、因果応報どころではないだろう。数的にも見合わないし、中佐の家族の悲嘆の何百万の虐殺を受けたのはユダヤ人なのだから。作者の意図を越えてるかもしれないが、「大人の歴史」などは子どもにとっては目の前の真実からは程遠いところにある。
陰謀論は特別な時代の少しおかしな権力者たちの所業が原因なわけでもなく、「ふつうの市民」がこぞって信じた結果なのだ。
暴力や不安に脅された事も否ないが、そこは誘因に過ぎず、根っこは徹底して利己的なもの。それは誰にでもあり、容易に怪物化する。その自覚はわれわれ全員が持ちたい。