湯林檎

ルートヴィヒ 完全復元版の湯林檎のレビュー・感想・評価

ルートヴィヒ 完全復元版(1972年製作の映画)
4.8
個人的に観た映画の中では人生で最も衝撃を受けた映画の1つ。
初めて観た時にこんなにも格調高くて美しくて、でも狂気と荒廃に満ちた映画があるんだとすごく感銘を受けた。豪華絢爛なセットや華やかな衣装を身に纏った登場人物たちとは正反対にルートヴィヒのその後の悲劇的な人生を暗示するかのような不穏な空気が終始漂っているのもまたこの映画の魅力。
作品の色調のトーンは全体的に落ち着いていて映画の題材も19世紀のバイエルン王国(現在のドイツのバイエルン州)の実在した国王の話なのでファンタジーやおとぎ話とは違った日常離れした世界であるのもかなり好み。

そうは言ってもルートヴィヒ2世のことやワーグナーの音楽或いはドイツの歴史に興味がないと多分退屈だと思うので誰にでも勧められる作品ではないのは事実。

また、シューマンの「子供の情景」がBGMで流れていたりワーグナーの「ジークフリート牧歌」を演奏しているシーンがあったりドイツロマン派のクラシック音楽が随所流れて良い味を出している。

※ここから先は若干ネタバレを含むので注意



初めて行った海外がドイツでその時にノイシュバンシュタイン城にも行ったのでこの映画を観ると映画を観ているというよりその時代にタイムスリップして歴史の1ページを見ているような気分になった。
(実際に城で撮影をしたらしいので余計にリアル)
役者のなりきり具合と演技が凄まじく、ルートヴィヒとエリザベートは本当に美しいしワーグナーはよく知られている肖像画にそっくりである。

哀愁漂う暗い雰囲気の映画だが、容貌と財力に恵まれながらも普仏戦争の敗北や国費の浪費などの困難に陥り謎の死を遂げた国王の人生というのが哀しいながらもどこか惹きつけられた。ルートヴィヒは王族ではなく一般庶民か地方の貴族として生まれていたらもっと幸せな人生を送れたのかもしれないと思うと何とも哀れな気持ちになった。

更にこの人の生涯を知れば知るほど本当の幸せは財力でも家柄でもなく自分の置かれている環境とその人の地頭の良さによって決まるのだと強く思えた。

映画全体としてはこれぞデカダンス、耽美という感じでハリウッドにはないヨーロッパ独特の気品ある作風がとても気に入った。
この映画を作るにあたってここまで大掛かりなセットや衣装、そして本物のお城を貸し切ったロケを行った映画は他に例を見ない。この映画を作り上げたルキノ・ヴィスコンティとスタッフ達、実在の歴史上の人物を演じた役者達の本気は凄まじい熱量を感じる。

あと、個人的にドビュッシーが1番好きなクラシック音楽の作曲家なのだがそのドビュッシーが若い頃に傾倒していたのがワーグナーである。ワーグナーもルートヴィヒの支援がなければ「ニーベルングの指環」などの名作を世に送り出すことはできなかったと思うと歴史って思わぬところで繋がってるんだと改めて思い、とても関心した。

P.S.本作でも演奏シーンが登場した「ジークフリート牧歌」の演奏をTwitterにてアップしました。https://twitter.com/yuringo00001/status/1274847177156620289?s=21
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