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ディレクターズ・カット JFK/特別編集版のblacknessfallのレビュー・感想・評価

4.0
ケネディ暗殺で唯一公判が開かれた所謂、クレー・ショー裁判の顛末を捜査を主導したジム・ギャリソン判事の目線から画いたオリバー・ストーンの力作。

ディレクターズ・カット版で206分、こんなの正月休みで時間ある時しか観れないよ笑 反権力性において信頼してるオリバー・ストーンなんだけど、これはその上映時間の長さとケヴィン・コスナー嫌いもあって今まで忌避してた。

政府の暗殺事件の調査機関、"ウォーレン委員会"のオズワルド単独犯という結論に疑問を抱いたギャリソンは独自捜査の結果、軍、政府、CIA、マフィアが結託共謀してケネディを暗殺した数々の事実、証言、証拠を発見していく。
壮大で複雑に巧妙に入り込んだ国家レベルの陰謀。
一人のキーパーソン。実業家のクレー・ショーがCIAの工作員としてマフィアと繋がった証拠を掴みクレー・ショー訴追に踏み切る。

ギャリソン判事のクレー・ショー訴追は捜査の段階から世間から嘲笑を浴びる。あまりに荒唐無稽に見えたし、何より政府の様々の圧力と妨害、警察内部からパージさせるギャリソン。そしてその尻馬に乗りギャリソンを嘲笑するマスコミ。
四面楚歌の状況でも権力に屈せず自身の信念を貫く男を思い入れたっぷりに描くオリバー・ストーンの演出とケヴィン・コスナーの重厚でキレのある演技でギャリソン判事の苦悩、そして事件への確信を共有することになる。
ケヴィン・コスナーがここまでかっこいいとは正直思わなかった。裁判シーンの大演説シーンは鳥肌モノの迫真の演技だった。トム・ハンクスかよってぐらい。
単にステロタイプの二枚目な印象だったし、『ボディガード』の頃にマンドナに「あれはイモねw」と笑われてたし、それに同感だったもんで笑 ケヴィン・コスナーの未見のやつ観ていこうと思った笑

オリバー・ストーンもこの頃は旬の監督としてのオーラがあり、ケヴィン・コスナーも絶頂期、お互い脂が乗り切った時代。
ギャリソン判事と対峙するクレー・ショーはトミー・リー・ジョーンズも悪役として定評のあった時期なので、画面の圧というか緊迫感と映画的な華が見事に融合していてる。ミステリーの興奮と映画的な快感で上映時間の長さがまったく気にならなかった。

事件その物のおもしろさもある。結局、色々んな疑問が残されたままだし、情報公開は2029年。今は誰であれ真相に辿り着けない。だから色んな仮説、憶測を注視することになる。

この裁判でギャリソン判事の"クレー・ショー陰謀の一員説"は裁判でも否定され、後年、ギャリソンの事実誤認や恣意的な解釈がマニアや研究者達から指摘され、公的にも世俗的にも有り得ないという結論になっている。

なのでギャリソンを陰謀論に取り込まれたバカだと冷笑する向きもある。しかし、実際、ケネディはベトナム撤兵、キューバ進行中止の方針を打ち出し戦争で儲けたい軍産複合体とそれに癒着し権益を拡大したCIAから敵視され、キューバ利権の復権を目論んだマフィア達は進行中止で大打撃を受けた。それに父のジョゼフはマフィアと癒着していたのに弟のロバートはマフィア掃討宣言までした。
事実、ケネディは表の権力、裏の権力双方から疎まれ恨まれてた。
そしてケネディの死後、大統領になったジョンソンはベトナム戦争に深入り、ニクソンはその路線を受け継いだ。その期間にマフィア掃討を掲げたロバートも暗殺。
そう、やはり何かあったと考える余地だらけ。

普通の思考力と良心、そして愛国心と正義感のある当時のアメリカ人ならギャリソン判事ではなくても陰謀を疑うのも無理はない。事実、政府の圧力、マスコミの嘲笑的な報道に晒されながらギャリソンの元には彼を支持する国民から励ましの手紙や寄付の申し出がある。

描かれたこの一連の流れ、観ててとても羨ましかった。今は知らないがこの当時のアメリカには間違いなく健在な民主主義を守ろうとする役人とそれに連帯を表明する国民達がいた。民主主義の機能がハッキリ見て取れるんだよ。どれも我々のクソ国家には存在しないじゃあないか笑

"ウォーレン委員会"の結論に異を唱えたことをマスコミに糾弾されギャリソンは答える。
「国民に嘘をつく政府を守る気か?」「そんな危険な国でいいのか?」
安部政権下の様々な汚職や隠蔽にこんな声を上げた官僚や検察官は一人もいなかった。
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