YasujiOshiba

ブラック・サバス/恐怖!三つの顔のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

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いよいよ真夏のホラー祭り(イタリア編)。バーヴァBDボックス(1)より。いやあ、たまりません。これめちゃいいじゃん!

某所の大スクリーンで見せてもらった『血ぬられた墓標 Black Sunday / La maschera del demonio』(1960)と同じ雰囲気。でもあちらは白黒、こちらはカラー。にもかかわらず照明の当て方で陰影をつける加減がそっくり。しかも、当てる光の色が青くなったり赤くなったりするだけで、それぞれに、ぞっとさせるような効果が生まれる。言ってみれば、白黒に色をつけたような映像。カラーのゴシックホラー。

3話形式のオムニバス。第一話「電話」は赤いのと黒いのが登場。「白い電話 telefono bianco」を登場させるとファシズム期の軽喜劇(I telefoni bianchi)になってしまうところ、多少は意識しているのだろうな。その赤い電話を手にするのは、白いナイトガウンのスージー/ミシェル・メルシェ。部屋に入ってきたときの黒のワンピースも素敵だった。みごとな足をみごとに曲げてストッキングを脱ぐ姿なんて鳥肌もの。

恐怖映画はこうじゃなくちゃだめ。赤い電話のあるスージーの部屋も素敵。これは直前に撮影された『知りすぎた少女』のセットの流用なんだって。いいセットだよな。こっちを先に見とけばよかったかも。

第2話の「ヴァルダラク」はトルストイが原作。トルストイといっても有名なレフ・トルストイ(1828 - 1910)のほうではなく、アレクセイ・コンスタンチノヴィッチ・トルストイ(1817 - 1875)のほう。「吸血鬼(ヴルダラーク)の家族」というタイトルで邦訳があるみたいで、ほぼ忠実に映画化しているらしい。

ただし、原作のほうは一人称の語りもので主人公は生き延びるハッピーエンドというのだけど、映画のラストはひねりが効いているのでお楽しみ。とりわけ、窓の向こうからこちらを除くボリス・カーロフとその家族の顔を見たときには、「やられた!」と思わずにはいられなかった。

セットは見覚えがあると思ったら、やっぱり『血ぬられた墓標』の流用。いやいいんですよこのセットが。まるでピラネージによる廃墟のエッチングさながら。このエピソードで、バーバラ・スチールに対抗するのがスージー・ダンダーソンのズデンカ。でもこの女優さん、本名はMaria Antonietta Golgi (マリア・アントニエッタ・ゴルジ)というコテコテのイタリア人。でも、いいんですよ。ぱっと開いた襟ぐりから見える白い肌と豊かな胸がなければ、吸血鬼映画は成立しないもんね。

第3話は「水の滴」はすごくよくできた心理ホラー。小さなハエがとまる指、飛び立ってブーンとうなる羽音、ふりはらう女、水の滴のポタリと落ちる音、あちらでもことらでも、次々とぽたりポタリと落ちてくれば、小さな部屋がなんとも不気味な迷路の広がりを持つ。そして、あの顔。あの顔は怖いわ。まさに原題「I tre volti della paura 」(恐怖の三つの顔)のなかのひとつなんだけど、そのひとつが次から次へと伝播してゆく恐怖。似たようなことをJホラーの「リング」やなんかがやるのだけれど、それよりもずっと前にマエストロ・バーヴァが見せてくれていたんだね。

見せてくれていたといえばラストシーンが秀逸。ぼくはフェリーニの『そして船は行く』(1983)だと思ったんだけど、バーヴァのモノグラフを書いたアルベルト・ペッツォッタはホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』(1973)を想起。この映画は1963年だから、フェリーニの20年前、ホドロフスキーの10年前にやっちゃってるんだな。

ああ楽しかった。
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