れれれざうるす

タイム・オブ・ザ・ウルフのれれれざうるすのレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003年製作の映画)
4.2
まさかハネケ映画で泣かされるとは・・・。
大嫌いアピールしてますがなんだかんだで6作目。もはやファン?笑
でも本作で諦めずに観続けて良かったと思えた。

ヨーロッパが『何か』により水と食糧不足になる静かなパニック映画。
何が起きているのかなど大切ではなく、観る者に問い掛けるような作品だった。冒頭で、ある家族に助けを求める父・母・娘・息子の4人家族。しかしここで容赦なく絶望に突き落とすのはお得意のハネケ節…。開始10分程で突然母子家庭になってしまい希望を失う。何故殺してきたのかは相手家族の妻の反応を見るにわかっていないんだろな。この時点で普通ではない常軌を逸した心理状態になってることがわかるんだよね。

母は子供2人を守ってこの世界で生きていなきゃいけなくなってしまう。だけど母だからって何?母だって一人の人間。こんな状態で生きる術なんて親からも先生からも習わない。家族の中では母が柱だけど、それより権力を持つ者は他にもいる。母だからと何の力も持っていない。上には上がいるんだよ。それを子供に見せず押し殺す母の苦しみが伝わりすぎて胸が痛くなった…。私の心がズタボロに…。イザベル・ユペールの演技あってこそだけどね。

母だけが辛いのではなく、娘と息子、途中で出会った盗みをして生きる孤独な少年、水を売る者、全ての登場人物にその人にしかわからない葛藤がある。どの視点から見ても幸せとは言えない。
息子の飼っている小鳥が逃げ出し、捕まえて一緒に寝た翌朝に小鳥が死んでいたシーンがそれを物語っている気がする。籠の中で生きてこれた小鳥が外に出ることで小さな男の子にだって悪気なく殺されてしまう、と。
一見守られているだけに見える息子が“変える”ことを考えているのは思い出しただけで泣けてきます…。こんなに救いのある切ないラストがハネケ映画にあっただろうか…。

いっそ誰かリモコンでこの世界を巻き戻してくれませんか??


私が観賞中思ったのは日本だとこうはならないだろうなーと。食糧を貰うために物々交換や暴動は絶対しないと思う。被災地での映像を見た時『分け合う』という精神が強いんだと思ったし。
ハネケは、私が今“他人に起きた出来事”を話しているのと同じで、遠いどこかで食糧難や差別や暴動や世界の破滅が行われているのをテレビで見ているような人に「あなたが明日こうなったらどうなるんですか?」と問いかけたかったらしい。

一言で良かった!とは語れないような映画だけどかなりオススメ出来る。
私がハネケ嫌いな理由は「愛、アムール」でハネケ作品より不条理に語ってるけど、本作ではそれが上手く活かせてた!いつもの長回しに真っ赤な炎とパチパチなる音だけが静かな終末に響いて、とても美しかった。