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雲のむこう、約束の場所のimurimuriのネタバレレビュー・内容・結末

雲のむこう、約束の場所(2004年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

新海誠作品再レビュー中

まごーことなき新海誠の最高傑作SFアニメ

物語がわかりにくい上にとても大衆向けと言えたものじゃないが、実際には恐ろしくよく出来た構図で物語が組まれているので、全ての展開に強靱な説得力がある。
何よりすげーのは、さゆりのナルコレプシーと塔とヒロキとの約束との関係性が完璧な繋がりで構築されてるところ。
さゆりのナルコレプシーはユニオンの塔の平行(並行)世界の情報(この世界では世界の見る夢が平行世界であり、その理論は軍事利用されている。この夢理解が敷かれているから、夢の中でのさゆりとヒロキとの邂逅〔を果たしたかのようなリンクした描写〕が完璧な説得力をもつ)が、さゆりの脳内に流れ込んでいることを原因に起こっているわけだけど(塔の開発者のエクスンツキノエはさゆりの祖父であり、世界を丸ごと書き換える恐ろしい威力をもつユニオンの塔の活動を制限する仕掛けが、孫娘であるさゆりの脳に平行世界情報を流し込むという、ちょっとした荒業によってなされている)、その膨大な情報量に負けずにさゆりが夢の中で辛うじてヒロキたちのことを忘れずに済んでいるのは、ヒロキたちとの「塔に一緒に行く」という約束があるからで、でも、現実のヒロキたちからすれば、ユニオンの塔がある以上さゆりが目を覚ますことはないため(さゆりが目覚めると塔の活動が本格化して世界をひっくり返すから)。そこで、敵国であるユニオンの強力な軍事兵器であるという事情も相俟って、ヒロキは民間テロ組織の一員として塔に飛び、約束を叶えることでさゆりを目覚めさせ、それと同時に塔に爆弾をぶち込んで壊すというミッションを任されることになる。

ここで、
①塔に連れて行くという約束を果たす=塔を壊す
②約束を果たす=さゆりが目覚める
ということが示唆される。
しかしながら、約束を果たすことは同時に、約束が消える(解消される)ということであり、これと①を合わせると、
③約束を果たす=約束の場所(塔)を失う
という、約束と塔(約束の場所)の両方を同時に失うことを意味する。さゆりにとってはその約束だけが現実との絆だったわけだけど、目覚めてしまえば約束という絆(夢の中でした約束も含む)が失われるわけなので、脳が耐えられないほどの情報量を流される中かろうじて残っていたヒロキたちとの記憶も(したがって彼に対する感情も)当然忘れてしまうことになり、以上のことから、
④約束を果たす=約束の場所を失う=さゆりが目覚める=約束(と夢のできごと)を忘れる
という構図が完成する。このことは度々「何かを失う予感がある」という台詞で示唆されている。

……というふうに個人的には解釈してたはず(はず、というのは、最後に見たのがもう何年も前なのでかなり曖昧な部分があるから)なんだけど、ひとつ気がかりなのは、目覚めたさゆりの記憶がどの程度消えているのかということ。実はこの映画、小説版が発売されており、そこには物語の後日談が載っているらしいとのこと(結局ふたりはおとなになってからお互いのために別れてしまうらしい?)なんだけど、未読のためはっきりしたことは言えないから憶測の域を出ずに言うと、
⑴さゆりは純粋に3年間分の夢を忘れた(したがって夢の中でした約束や、その時のヒロキへの気持ちだけを忘れた)
⑵さゆりはナルコレプシー以前の塔に行くという約束及びその約束に関連すること全てを忘れた
⑶さゆりはヒロキたちとのことを丸ごと全て忘れた
⑷日常生活に支障がない言語運用能力や常識を残して、自分のことなどあらゆる物事を忘れた
の4パターンが考えられると思う。目覚めたさゆりがヒロキのことを「あなた」と呼んだことから、個人的には⑶だと解釈していたんだけど、実際にはどうなのかわからない。


この映画はそもそも、少年二人が自分たちで作った飛行機で好きな女の子と一緒に飛びたいという願いが物語の根幹にあって、だから「ふしぎの海のナディア」とかそういう系のボーイミーツガールが好きな人なら飛びつきたくなる設定なんだけど、正史とは異なった日本を舞台にしたSFアニメでもあって、その非現実的な舞台設定のためか新海誠の幻想的で鮮やかな色使いが最も強く表れている作品なんだけど、これに天門の音楽が最高の相性の良さを発揮してわけがわからないくらいどハマりする。
ハマる人はハマるけどハマらない人にはとことんハマらない、そういう作品だと思われる

長くなったけど、今言いたいことは兎にも角にも早く小説版が読みたいってこと
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