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血を吸うカメラのくりふのレビュー・感想・評価

血を吸うカメラ(1960年製作の映画)
4.0
【暗闇にいれば安全だ】

U-NEXTにて。スラッシャーを見慣れスレてた若い頃…の初見では、本作の凄みがわからなかった。凶器しょぼ、とか思ったり。でもその凶器は改めて見直すと…100均で売っててもおかしくないほど、よく考えられているんだよね!www

マイケル・パウエル監督は、ジャンル映画に箱詰めせず、生身の人間と向き合っている。主人公は異常な“症例”として育まれたワケだが、結末がどうあれ“治そう”と志向するのが物語の前提になっているよね。

現代の映画なら、こんな異常性は個人差あれ誰もが抱えていると描き、日常風景化している。が、その方が異常。時代はより濁っている…と気付かされて、こんな映画で感覚をフラットに戻されたりもする。

同時期制作の『サイコ』とよく比較されるが、改めて振り返れば、コッチの方が真摯な変態映画だ。ハッタリ描写に溺れず、変態に自己責任で変態させている。ノーマン・ベイツより優秀な変質者じゃないか。

ファイナル・ガールの元祖とも見えるヒロインも良いんだよね。これは時代のせいだけど、変態への警戒心が薄くて、真摯に向き合おうとする。勇気が際立つが、女優さんのしなやかさも、嵌っているよね。

一方、モイラ・シアラーを『サイコ』でいえばジャネット・リー的位置づけで使ったのは巧いというか、いぢわるというか…。『赤い靴』での彼女は素晴らしかったが、本職バレエダンサーだった彼女はその後、女優としてはイマイチ…というキャリアであったのに…その先で、この役ってば!?

ダンスのキレはさすがで、出演シーンは本作イチ!躍動しているのに…そうするかい監督!まぁ『赤い靴』の哀しきヴィッキーと、似てるっちゃー似てますが…。😅

肝心の変態カールハインツ・ベームは、視線がギトギトしてますが、それを隠そうとする健気さ?がいい。ずっと後で、ファスビンダー監督『マルタ』(1974)を見たら、この映画から間違って社会復帰しちゃったような男を演じており…驚きの再会が嬉しくも、ゾッとしました。w

また物語上、窃視症の敵が盲目であるって仕立ても、見事な対立軸で感心しますね。とはいえ一番いぢわるなのは…映画の観客も自覚なき窃視症だ!と、こちらに気づかせてしまうことではないでしょうか。

相変わらず、パウエル監督作は映像が鮮烈!これも『赤い靴』同様、レストア版を劇場で見たいですね!

<2024.3.28記>
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