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マイネーム・イズ・ハーンのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

マイネーム・イズ・ハーン(2010年製作の映画)
4.2
想像を超えたダイナミックな物語だった。アメリカのヒーローものの型を借用してイスラムへの差別を訴えた見事な構成だった。愛する人を失って、憎しみでは解決しないことを主役のハーンの純粋な行動で示していく。無名のヒーローの献身的な行動が他者の心を動かす。どちらの文化も傷つけずに、ムスリムの純粋な信仰の力とハーンの生まれもった純粋な資質で事態を突破させている。ストーリー展開のダイナミズムにうなってしまった。

この作品は、ムスリムへの差別や偏見を取り除いてほしいことがメッセージだと思うが、母からの教えである信仰の純粋さだけで押し通せば反感が出よう。アスペルガー症候群であれば自分の意思を押し通しても許されるエクスキューズとなる。その資質を信仰の純粋さの隠れ蓑にしていると感じた。愛すべきハーンなので、その設定に文句はないが、製作者側にハーンのように世界を変えたい純粋さがあれば、アスペルガーである設定は要らなかったのではと思う。

登場人物いずれも魅力的で、練りに練った脚本と大胆な構成に興味をもった。やはりそういう精緻な作り込みと大胆さは、インド映画をそれほど数多く観ていない範囲でも特徴に感じる。

また、ムスリムとの友好や本作のようにムスリムの擁護、ムスリムが主役なのも多様な宗教のインドならではに思う(インドではムスリムは少数派ではあるが)。

しかし多様性とは多数の見えない壁があることでもあり、均一化、同一化のような形で一つになることを拒絶する。

インド映画はいつも何かの壁(多くは宗教の違いか、カーストの身分)を破ろうとエネルギーを噴出しているように感じる。それが、大きな変化を避け惰性の中で目をつぶり安泰にやり過ごそうとする同一化傾向の国民性の私にはとても魅力的に映る。

本作で特にインド映画のパワーを感じた場面は、台風で孤立した村でハーンが活躍するのだが、そこに助っ人たち老若男女が水に浸かりながら集まってくるシーン。ナレーションで、金銭の寄付ではなく肉体労働という直接の貢献で助けていると語られる。ポイントはここだなと思った。インド以外で肩まで浸かる水浸しの中を歩いて互いに助けあうシーンを見たことがない。本作はアメリカが舞台で、もちろんアメリカ人はそんなスゴワザを見せない。経済的支援はするが。

冒頭で水浸しの集合住宅の水を抜くシーンがある。腰まで水に浸かる豪雨や台風のシーンは他のインド映画でも見たことがある。自然災害がたびたび起こる国では国の支援や資産家の寄付を当てにする前に地域住民が力を合わせて助けあう。おお、日本と一緒だ。

そこではオールマイティーの一人の強いヒーローより、協力しあう大勢の方が価値があり有効だ。

話がズレたが、インド映画のパワーは、換骨奪胎でアメリカのヒーローものを模倣しつつ、群集にパワーを与えることだと思った。

本作ではハーンの困っている人への無償の貢献が、アメリカ在住のムスリムへの差別や偏見を取り除き、自信を与えている。

「群集」のパワーは、反体制として危険にとらえられることが多いが、インド映画は(批判を隠し)ポジティブに見せるのが上手いなあと思った。

上映中の高評価作品『RRR』を観てみたくてたまらない。
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