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マイネーム・イズ・ハーンのTSのレビュー・感想・評価

マイネーム・イズ・ハーン(2010年製作の映画)
4.5
【矛盾した怒りの矛先】94点
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監督:カラン・ジョーハル
製作国:インド
ジャンル:ドラマ
収録時間:162分
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例えばA社のB社員がろくでもない営業をするとその客から反感を抱き、その客からすると当事者のB社員は勿論のこと、そのB社員が所属するA社の印象も下がってしまうことでしょう。要するに、人間というのは無意識のうちに集団意識を備えているのです。
さて、今作はまさしくそのような集団意識が「イスラーム」という巨大宗教に向けられたことを示唆する傑作であります。確かにこのイスラームのイメージを極端に悪くしてしまった原因は9.11同時多発テロ事件で間違い無いでしょう。昨今ではイスラーム国の影響も強いと思いますが、イスラーム=テロリストというとんでもない偏見が人々の中に芽生えてきてしまっています。イスラームに関連する映画を見たときにほぼ毎回言及していますが、そんなことはありえない。イスラーム教徒は全世界に十数億人います。その全員がテロリストでしたら世界はとっくに破滅しています。日本人一人が犯罪を犯したからといって、日本人1億3000万人が犯罪者ということにはなりませんよね。それと同じです。
しかし人間というのは非常に用心深くて且つ単純な生き物です。イスラームに悪のレッテルが貼られたらなるべく関わらないようにする。それどころか、自分の苛立ちや不満などの原因を全てそこに向けてしまうほどなのです。

前置きが長くなりましたが、今作は一人のイスラーム教徒の男性が、自分はテロリストではないということを主張するためにアメリカ大統領に直に会いに行くという感動ロードムービーです。前半は主人公リズワン・ハーンが移住先にいたマンディラと出会い恋に落ちる有様を、後半は一転して考えさせられる内容になっていきます。とにもかくにもこの「ハーン」という名前が全ての引き金になってしまいます。

マンディラの怒りもごもっともです。本来ならば、それをしてしまった彼らに、元を辿ればテロを引き起こしたテロリストたちに怒りの矛先を向けるべきなのですが、この状況だとリズワンに怒りの矛先が向くのも無理ではない。何故なら再婚して「ハーン」という名前になってしまったからです。リズワンと結婚しなければ。。しかし、当然ながらリズワンには何の罪もない。何の罪もない人に怒りの矛先が向けられている。この矛盾した怒りの矛先が今作最大の問題点でありましょう。ユダヤ人のホロコーストもこれと似ています。

9.11同時多発テロ事件を描く映画はかなりありますが、これもそれに関連した、ただしかなり間接的に描いた作品です。こんなところにも9.11の飛び火が来ている。改めて驚愕の事件であるということが再認識されました。この9.11同時多発テロ事件は軍需産業の需要拡大、イスラームを国家の敵とみなすため、というあらゆる理由によって、実はアメリカが自作自演で行なったと囁かれる節もあり、些か間違いではないのかもと思えることもあります。そうなれば本当に恐ろしい。イスラーム教徒が1日にしてアメリカの、そして世界の敵となってしまうのですから。

リズワンの行動は普通の人には出来ないでしょう。しかし、彼の行動は賞賛に値します。それは、宗教や民族というものを超えた人類が理解すべきものだったからです。この世の人間は善人と悪人の二つによってのみ分けられているという見解は的を得ていると思われました。

どう考えても傑作としか言いようがない。そしてこれを見た多くの人が、イスラームに対する考え方を変えるでしょう。また、部落差別問題などを考える際にも、今作は大いに参考資料として助けになるでしょう。
TS

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