改名した三島こねこ

ザ・バニシング-消失-の改名した三島こねこのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
4.3
私の中で狂気の犯罪者の頂点はレクター博士だ。

露悪的でとってつけたような狂人ではなく、むしろ大衆よりもはるかに知的で品がある。時にユーモラスな一面も垣間見える彼の人物像に私は惹かれたのだ。

しかし『羊たちの沈黙』の数年前にも、色香を漂わせる狂人がいたのだ。彼の名はレイモン・ルモン。かの食人博士の影に隠れる名悪役は、私達を戦慄の底へと叩き落としてくれる。

彼の犯行は合理的そのものだ。ひたすら下準備を重ね、虎視眈々とその時を待つ。獲物が網にかかったなら彼は躊躇わない。やると一歩を踏み出せる魅力的な男だ。情熱的なレックスの狂気と対比して、冷徹な狂気をその身に宿している。

彼が魅力的なのはもうひとつ。狂気とされる原動力が、私達にもどこか理解できてしまう点だ。万人の心の奥底の仄暗い闇が、私達と彼を引きつける。あるのはわずかなボタンの掛け違いと、一掬いの偶然。しかしその微々たる差があまりに遠い。

劇的な物語を期待する諸氏には申し訳ないが、この物語はとても静かなものだ。どんよりとした雰囲気の中、レックスの好奇心の行きつくところを見届けてほしい。