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マッキラーのryosukeのレビュー・感想・評価

マッキラー(1972年製作の映画)
3.9
冒頭から子供にタバコを吸わせたり、素っ裸の女(バルバラ・ブーシェが魅力的)と会話させたりとPTA激おこ案件っぽい描写が続いて凄いのだが、それもそのはず邪悪で過激なPTAレベル100みたいな奴の仕業というオチ。少年と女の狭間に位置する波のオブジェも良い雰囲気を出している。ヌードシーンは単なる客寄せパンダだったのかもしれないが、結果的に彼女を異様に怪しくしていて(ショタコン疑惑?)ミステリーを面白くしていると思う。
俊敏な動きとズーム、ダッチアングルを駆使したスタイリッシュなカメラワークと、次々に真犯人候補が移り変わっていき、最も意外な着地点に到達する無駄の無い語り口が光る良作。「サスペリア」しか見ていない状態のジャッロ映画のイメージで、異常なカルト映画を見るつもりだったのだが、意外にも良くできたフーダニット・ミステリーだった。
ルチオ・フルチはゾンビものを撮ったりしているらしいが、正義感に狂った住民が被疑者を取り囲むシーンなどゾンビを撮るための方法論で捉えられているように見える。呪術的世界観を持つ彼らに相応しい撮り方なのだろうか。一層惨劇を悪化させていくことになる土着信仰を有した彼らと対比的な存在として、どうやら外部出身のエリートらしき捜査官が描かれる。保守的、差別的な住民が麻薬中毒のよそ者やマッキラーに向ける視線が鋭い。出所直後のマッキラーへの態度や、血塗れの彼女をスルーしていくファミリーカーなど中々えげつない描写。
首もげドナルドダックなんて出してデ○ズニーが怒らないんだろうか。カトリックの描写もアレだし物議を醸す監督であったことは容易に想像できる。
マッキラー役のフロリンダ・ボルカンの発狂演技はなかなかの迫力だった。彼女に腕毛が生えているせいで、泥人形を埋める人間が男だと思ったのだが、これはミスリードのためなのか、自然に放っておいただけなのかどっちなんだろ。昔のイタリア映画だと生えてることが多い気がするし、特に意図はないのかな。
マッキラーが殺害されるシーンでカーステレオから流れるラジオの音楽が、ハードなロックから穏やかなバラードに変わる外連味も素敵。
衝撃のラストにも優しい劇伴が被さり、エンドロールに感動的なバラードが流れる異常っぷり。しかしこれは、岩壁に顔肉を削られながら落下していく奴の脳内が優しい狂気で満たされていることの表れであろう。地獄への道は善意で舗装されているとか何とか。あ、彼にとっては天国行きでしたっけ。
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