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風の中の牝鷄のkeecoliquoriceのネタバレレビュー・内容・結末

風の中の牝鷄(1948年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ついに観た。という思いです。
渋谷ル・シネマでの小津特集にて。

小津安二郎、生誕100年のシンポジウムで、日本の監督に聞く、という日があり、山根貞夫氏が司会で登壇した監督は、崔洋一、青山真治、是枝裕和…など(ちとうろ覚え)、私は黒沢清監督の人となりが知りたくて行ったのだったが、開口一番「『風の中の牝鶏』を久しぶりに観たが、恐ろしい映画ですね」などと言い出し、会場にどよめきと笑い。

さらに「復員してくる佐野周二は常に暗い顔だし、階段から落ちて、あ、死んだなと思った田中絹代は起き上がるし、あの2人は幽霊だと思う」みたいなことを淡々と仰り、さらなる笑いを誘発。

なんて面白くてチャーミングなお方だろうと思いました。

そして、『風の中の牝鶏』を観なくては、と思いつつ、黒沢監督がその階段落下をオマージュした『トウキョウソナタ』を観たのに、『風の中…』を劇場で観る機会がないまま、今年2023年、小津安二郎監督生誕120年になっておった。

ついに観た。
なるほど、強調するかのごとく真正面から何度も映される階段。

が、上映が始まってすぐに驚嘆したのは、田中絹代さんの体幹だった。

正座して揃えたままの両膝をヒョイと持ち上げ、身の横に置いていた手荷物の上を、くるりと半円を描いて越えた。びっくりした。

と、思うとこんどは、また正座のまま4歳くらい?の息子を背中におぶってすくっと立ち上がった。
すげー。

熱を出した息子を抱えてさっさと階段降りるのも驚いた。階段、ていうかセリフに「はしご」とあるようにかなり急なのだ。

ああ、この鍛えられた肉体で階段を落ちるのかなと思ったが、実際はスタント使ったんだろうな、めちゃすごい落ち方でしたもん。

お話としては、まるでかの有名な心理テスト「川を渡る女」のとっかかりのような状況。

はたして、夫婦どちらの心情も分かるしどちらも許せない。

忘れよう、これからこそ大事と希望を口にはするけれど、あのあと、病を乗り越えて育っていく息子を見るにつけ、夫婦はどうなっていくのだろう。

続きがあるとしたら、夫が仕事を紹介した若い女の子が再登場して、またいらぬ誤解が生まれて一波乱ありそうだなぁ。

などと、あれこれ思わずにはいられなかった。

ここ最近、BSNHKや松竹東急の小津特集で「東京物語」「晩春」など続けて観てただけに、笠智衆の年齢相応な役柄、新鮮でした。
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