TAK44マグナム

デンジャーゾーン タービュランス3のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

4.5
へヴィメタルなロッカーが悪魔崇拝者と雲の上で戦う!


「タービュランス」シリーズ第3作。
意外にも面白いハイジャック映画。思わぬ拾い物ですよ、これは!
低予算のビデオ用映画ですが、クレイグ・シェイファー、ガブリエル・アンウォー(←この二人は元夫婦ですね)、ルトガー・ハウアーなど中堅どころのキャストを揃えて見栄えもバッチリ、CG関連も予算規模からすると悪くない。
無駄に派手な爆発もするし、へヴィメタバンドが旅客機でライブをやっていたらハイジャックされるというバカバカしいアイデアも、やるならこれぐらい独創的にやらないといかん、と思わせる力技が光ります。


暴力肯定で社会の批判も何のその、若者たちの絶大な人気を誇るへヴィメタルロッカー「スレイド・クレイブン」。
ライブステージを特設したチャーター旅客機で飛んで、選ばれたファン40名と共に空中でおこなうという前代未聞のライブが今まさに開かれようとしていた。
ライブの模様はZウェブTVによってインターネット経由で全世界生中継され、1000万人の視聴者数が目標であった。
まだ上昇中だというのに一曲目の「ガン・デス」の演奏が始まり、ライブはのっけから電気椅子まで登場して最高潮。
スレイドがステージから消えて、再び登場すると、その手には拳銃が握られていた。
様子を見に来た機長を射殺するスレイド。旅客機内は一気にパニック状態に陥ってしまう。
一方、FBIのサイバー捜査官であるケイトは、2年間追ってきた「スペクター」と呼ばれるハッカーの居所をついに突き止めていた。
上司には別動班に逮捕させると言われたが納得できないケイトは無断でスペクター逮捕へ向かう。
その頃、スペクター=ニックは、スレイド・クレイブンの熱狂的なファンで、ネット中継を観ていた。彼はハッキングにより隠しカメラを含む全ての中継カメラを自在にみられるようにしていた。
すると、一台のカメラが殺人の瞬間を映し出したではないか。
驚くニック。そこへケイトが現れる。
拘束されたニックだったが、ケイトへ機内の殺人について訴え、二人は協力してインターネットを介してスレイド達の動向を探ることにする。
ケイトの連絡をうけたFBIも動き出し、上司たちはZウェブTV社へと向かい、航空局はハイジャック事件への対応を始める。
一体、空で何が起きているのか?
恐るべき陰謀に、天才ハッカー、そしてロックンローラーが挑む!


本作における最大の特徴は、旅客機、ZウェブTV社、そしてニックの自宅というインターネットで繋がった三つの舞台で物語が進行するところだと思います。
この三つの舞台には登場人物がそれぞれ配置され、それぞれの役目を(実際には交わることなく)こなしてゆきます。
ネットおよび電話で連絡を取り合い、少しずつ事件の全貌に迫ってゆくうちにチームプレーが生まれるわけですが、ニックとスレイドの距離を感じさせない協力体制などは実にインターネット時代の作品だなと思わせてくれて巧いですね。

飛行中の旅客機内でスタンディング状態のライブを開くという、トリッキーというか無茶というか、とんでもなくアホな設定ばかりに目がいきがちですが、そんなんでも無理なく事件が発生して、程よい緊張感を保ちながら、マリリン・マンソンまんまな格好のロッカーがダイ・ハードしまくった揚句に、やっぱりエア・パニック映画は最後はこれでしょ!と言わんばかりに無事に着陸できるのか?というクライマックスまでソツなく持っていっているのは評価しないわけにはいかないでしょう。

登場人物が、みんなそれなりに活躍するのも良いです。
ニックが正義漢だったり、そういう性格設定が事前にセリフなどで説明されるので彼らの行動が突拍子もなく映るということはありません。
これってかなり大事なポイントだと思います。
どんなキャラクターなのか分かり難いままに何か行動されて、何だか座りが悪いなあと思ってしまう映画も多々ありますから、そういった点では細かく配慮された脚本だなと思いました。
ちゃんと電気椅子にも意味があったり、「自家用機を買おう!」なんていう気の利いたバカなセリフも飛び出して笑わせてくれます。

キャラクターの中では、スレイドも悪くないですが、やはりニックが出色です。全編、ほぼ椅子に座ったままなのに一番の功労者。
嫌味が無くて良いキャラでした。
ガブリエル・アンウォーは相変わらず知的な美貌を振りまいており、オチでは驚きの行動をみせるケイトというキャラを好演しています。
反対に、いかにも怪しい素振りばかりをみせる福機長役のルトガー・ハウアーは、別に彼でなくても良い役だったのが残念。確かに存在感はあるけれど、ルトガー・ハウアーだけに「何かあるに違いない」と観る者に先入観を与えてしまうのはいただけないのではなかろうか。

実際のところ、ハイジャッカーたちの異常な目的やら何やら、何だかよく分からない部分もあったりするのですが、くどくどと余計な説明はせずに勢いで見せてくれるのは正解でしょうね。
ご丁寧にも意外な展開も用意されているし、ハッキングやウェブTV、フライトシミュレーターなどの(製作当時の)ハイテク感あふれるアイデアをぶっ込んだ遠隔サポートありなダイ・ハードっぷりが単純に楽しい映画でした。
痛快で呑気なラストも気持ち良いし、安っぽさは否めないまでもワンコインぐらいまでなら購入したとしても後悔しないで済むぐらいの出来映えではあると思います。
ちょっと毛色の変わったエア・パニック映画の佳作、オススメです。


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