はこ

下女のはこのレビュー・感想・評価

下女(1960年製作の映画)
5.0
韓国の映画監督キム・ギヨンと『下女』の存在は以前から知っていて、シネマヴェーラで催された特集上映などチェックしていたのだが、今回が初めて。観て、なんでもっとずっと前から観ていなかったのだろうと激しく後悔した。
裕福な家庭を持つピアノ教師の男が、ひとりの「下女」すなわち住み込みの女中を招き入れたところから物語は始まる(といっても「?」という導入部があってのハナシなのだが割愛)。三つ編みで田舎生まれの素朴な「下女」と思いきや、来るやいなや家族が使うであろう皿に、残り物のご飯の上に殺鼠剤をばらまいて台所にズデンに無神経に置く辺りから、一気に不穏な空気が流れる。粗筋だけいえば、出産のために妻と子供が帰省したときに男が犯した過ちによって、折角の新築の家が地獄と化す。といっても妻と「下女」が髪を引っ張りあって争うだけではなく、世界がこの家庭を罰するかのように不思議な落雷・猛烈な大雨、不思議な拵えがされた階段で唐突な悲劇が生まれるなど、すべてが妻と愛人に挟まれた男に向かってドイツ表現的且つRKO映画のホラーのようなテイストの恐怖が襲いかかる。ただの痴情のもつれではない、自分の存在のすべてを賭けた人間たちがさして大きくない二階建の一軒家で争っていく、地獄のような映画。さして事情は知らないがこれを監督したキム・ギヨンの諸作の素材は保存状態が非常に悪く、かつ「むかしの監督」扱いされているのか、韓国でも代表作『下女』が辛うじて手に入るくらいだ。これは非常にもったいない、『下女』だけではなくその他の作品も非常に強烈だと仄聞する。次の上映の機会があれば馳せ参じたい。必見。
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