このレビューはネタバレを含みます
無意味な中に娘への愛を秘めた、人の衝動とは何か?を描く究極のカルトドラマ。
本作”カノン”は、”カルネ”のその後が描かれているが、続編と言う訳ではないらしい。
カノンの主人公は、カルネ同様、平凡でくだらない馬肉店の男であるが、自分では決してくだらない人間だとは思っていない。
すべての否を他人に押し付ける事で、自分自信に言い訳し、膨大な憎悪をすべてに抱き、その憎しみから、毎日色んな物に、苛立ちを感じ、激怒している。
彼の憎しみは徹底している。
情景溢れるパリを散歩しながら、独り言のように、その憎しみをぶちまける。
しかし、そんな彼にもたった一つ愛するものがある.....娘である。
彼の彼女に対する愛の形は、性的である。その歪んだ愛の独占が、単なる勘違いから悲劇を招く。
映画の大半は、その彼のモノローグと、妄想で占められている。
出所後、ひものような生活を送ってみるが、結局、それにも耐えられず、そこを去る。彼にとって、大事な物は娘だけだ。娘以外の愛なんて、娘以外の美なんて存在しないのだ。
性欲は、愛情なしに存在するのか?・・・・愛するあまり、性欲は高まり、興奮も高まり、やがて、幻想の世界に入る主人公....
それは、もっとも単純な人間の衝動の世界なのではないか?....
妄想の世界では、すべてが可能なのだ。
主人公の妄想の世界では、無意味な妄想が繰り広げられる。
それは、彼の無意味なモノローグの延長だ。
また映画の中には、他にも無意味な要素がある。
時折現れる、爆発音だ。
この音がするたび、観客はびくっとするであろう。
しかし、この音が次第に映画のリズムになってきて、独特の緊張感を作り上げている気がする。
また、娘とのシーンの前には”アテンション”の文字が現れれ、感受性を傷つけるおそれがあるので、それが嫌であれば、30秒以内に退出せよ!と告げられる。
これも独自の無意味の作法であるが、また、一段と観客の心を引き締める。
98%が無意味、だが、残りの2%は、意味がある。
あいまいなストーリーに、あいまいな、ラスト、血と精液と嫌悪感が交わり、合わさり、衝撃フィルムは、低俗で、モラルに反すると思うかもしれない。
しかし、だからこそ全く道徳的で、人間的で、リアルそのものなのである。
無意味の中に秘めた、一つの大事な物、これのためにすべての無意味は存在する、そうして有効なのだ。