ぽこぽん

アングスト/不安のぽこぽんのレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
3.7
お前のアングストなんかーい
あと、犬は無事です。

不安、恐怖という意味のタイトルですが、怖さを感じているのは殺人鬼側という。
実録!本当にあった!みたいに言われているが、実際の事件から着想を得たあくまでフィクションであり、その範疇でとても出来が良い。

本作は強迫性の犯罪衝動を描いている。「やらなきゃ」となっている状況において主人公が感じているのがアングスト。だから最後までやり遂げるとようやく安心できるらしい。最初と最後にそれぞれ精神科医の診断が示されるが、いずれも精神障害ではないと判断される。倫理観はないが病気でもない。今風に言えばサイコパスってことになる(実際の事件では一家殺害の後精神障害診断)。でもこの診断はタイトル「アングスト」と矛盾する。快楽主義のサイコパスであれば「アングスト」を感じて犯罪に駆り立てられることはないし、実際冒頭のナレーションで主人公が医師に助けを求めていたと語られる。この映画は実際の殺人鬼をモデルに、強迫的な犯罪衝動に駆られることの恐怖、不安を描いた映画であって、サイコパス系というミスリードにハマる視聴者は作中の精神科医と同じ轍を踏んでいることになる。やりたくてやってるんじゃない、怖くてやってる。

また実際の事件とは明らかに展開が異なる。というか、主人公が脳内で語る「計画」は実際の事件に沿った内容なんだけど(例えば息子を殺して親にその姿を見せる)、本作ではその計画は実現されない。主人公がガバガバメンタルで犯罪を実行しているため、実際の事件より遥かに段取りが悪く、「計画」は悉く失敗する。脳内には実際の事件、でも映画内で実現するのはドタバタ失敗劇ということで、映画があくまでもフィクションとして撮られている事を映画自らが告白している。

犬が無事なのは実際の事件準拠らしい。猫はやれても犬はやれなかっんだって。なんだそれ。
お母さんが死ぬシーン、殺人チェイス地下道で飛び跳ねまくるおもちゃのボール、夢にまで見たカニバリズム後に嘔吐とか、明らかに楽しく作ろうという意図が感じられる。なんで上映禁止になったんやこれ。
映像的には楽しい良作。
ぽこぽん

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