モスマンは実在する

アングスト/不安のモスマンは実在するのネタバレレビュー・内容・結末

アングスト/不安(1983年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

(英語字幕で鑑賞しました。字幕を正しく読むことができず思い違いしている箇所もあると思います)

2回目の鑑賞

大好き。狂気というよりは主人公の歪んだ心の世界そのものが観る側を侵食してくるような感覚が面白かった。主人公が謎の論理をもって行動するので、最初はツッコミを入れたくなるが、徐々にツッコミを入れる気力も失せ、とくに違和感も無く応援するようになるのが楽しい。

たまたま忍び込んだ屋敷の住人を殺していくうちに、自分自身の過去の家族の記憶と目の前の家族が重なっていくような描き方。見知らぬ家族を殺すうちに、その殺す行為が自分をこんな風にした奴等への復讐へと変わっていくような感覚。実際に知らない人を殺していくときは、こうやって自分の内面を相手に投影させながら殺すのだろうなという説得力があった。主人公は自分の過去を思い出す心の声と連動して人を殺していく。実際に、精神のバランスが崩れると、自分の体の感覚と心の感覚がシンクロせず心が体を高いところから見下ろしているような感覚になるので、こうした描写はよく分かる。

長いこと俗世の女性に触れていなかったので、ついついダイナーの若い女性の太ももと尻ばかり見る→若い女性の唇・声・顔などを「オカズ」にしてウインナーを喰らう、という一連の動き。「みんな俺のことを見てるぞ...」という偏執的な主人公の頭の中を示すように、ふとした瞬間に入り込んでくるカメラ目線の脇役達。全てが映像で物語ってくる面白さがあった。

クラウス・シュルツのサントラがとても良い。主人公の心のモードが切り替わる瞬間の「よーし、やるぞー」感があるが、機械的な冷たさのある曲でもあり、主人公の歪んだ精神ゆえの行動であるところともシンクロしているようで面白い。
https://m.youtube.com/watch?v=vl376UV5jB8

本作は精神の病を持つ者による殺人を描いているが、決して偏見を広めるような内容ではない。「精神病は支えてくれる人がいないと治らないし、本作の場合、そもそも家庭環境や人間関係が原因だった」という立場の作品だ。どうしようもない。自分としてはいい作品だと思う。

撮影の仕方が面白い。後のダーレン・アロノフスキー監督の「π」も本作の影響を受けていると思う。役者にカメラを括り付けた撮影法。