櫻イミト

ター博士の拷問地下牢の櫻イミトのレビュー・感想・評価

ター博士の拷問地下牢(1973年製作の映画)
4.0
「エル・トポ」(1970)の共同プロデューサーでホドロフスキー監督の盟友だった、フアン・ロペス・モクテズマ監督のデビュー作。原作エドガー・アラン・ポー。メキシコ原題は「The Mansion of Madness(狂気の館)」。

ジャーナリストのルブランは級友ジュリアンの紹介で高名な精神医メイヤール博士の解放治療所の取材に向かう。しかし治療所はまるで廃墟の様だった。博士は異様な施設や治療法を案内し自分をこの治療所の国王だと言い放つ。。。

ずっと気になっていたモクテズマ監督作を初鑑賞。

ファーストカット、荒れて色落ちしたモノクロのような画面に森をゆく馬車が映る。何だかシェストレム監督あたりの古典映画のようで好みの映像加工かも!と思いながら観ているちに、実は極度の劣化画質であることに気付いた。どうやら日本語版DVDはテレビ録画に字幕を付けた海賊版レベルのものらしい。仕方なく続けて鑑賞していたが、かなり好みのロケーションだったので途中で停め、海外版で観直すことに。

映像は耽美系で廃墟好きの自分を充分に満足させてくれた。美術衣装も世界観を妨げる違和感はなく、撮影の画角も影の深さも好み。事前に予想していたグロシーンは皆無だった。

ストーリーは映像の雰囲気とシンクロした展開で悪くはない。ただし、ひねりはなく割と定番の流れで終わっていく。ダンテ「神曲」の引用などはあるが全体的に難解さは感じられない。ファンタジックでホラーなムードの中で、時々コミカルで楽しい音楽が使われているのが個性的だった。映像重視のアートなエンターテイメントを目指したのだろうか?

モクテズマ監督は1960年代にホドロフスキー、フェルナンド・アラバールと共に前衛演劇集団ル・パニックを立ち上げた人物。ホドロフスキーが演出、アラバールが脚本、モクテズマが製作という役割分担で、その座組はホドロフスキーのデビュー作「ファンドとリス」(1967)も同様だった。

本作の映像はホドロフスキー、アラバールよりも好み、というかベスト級に気に入ったので、ぜひ他作品も観てみようと思う(最初に観た劣化画質版のインパクトが主観を狂わせているかもしれない・・・)。
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