曇天

KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XVの曇天のレビュー・感想・評価

KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV(2016年製作の映画)
3.5
宣伝少なくてマイナーだけどサイトの評価点数が高い映画に体当たりしてみる、というやり方で去年は楽しい映画が沢山発掘できたのでその習性を働かせて今回、観てしまいました。興味はあるけどクリアまで行きつかないのが目に見えているのでほぼ手が出せてないFFシリーズにまだ未練が残っていたのかもしれません。

結果は…自分も世間様と同じくストーリーに目を瞑って映像にだけ注目して楽しんでいれば…! ちゃんと楽しめたと思います。それくらい個々の展開が良い方にも悪い方にもどちらにも解釈可能で悩ましい。

舞台設定がシンプルであるお陰で敷居の高さは感じない。
冒頭の過去シーンとアクションシーンのお陰で導入はこの上なく盛り上がるし説明丁寧。見どころも凝縮されてて「国の興亡に振り回される人間模様」と「魔法国対機械国の高度化された戦闘アクション」。前者は端的な演出で理不尽さを表現しきって、後者は台詞説明なしで見慣れないアクションを見せることでこの戦闘が習慣化されてることを説明する。正直この見せ方はカッコよくてアガった。世界観を表すアクセントにもなる。

主人公の立場は「王様の家来だけど王様に不満を持っている」というアンビバレンスが主軸にあるのが良かった。故郷は戦いの中で帝国に乗っ取られてるんだけど、協定を結ぶと帝国と停戦する代わりに故郷が完全に敵国の領土になってしまう。他所の国の王に仕えていても自国民の意地を忘れない姿勢には好感持てる。

不満を内包した状態で、戦況は半分内乱のようになっていく。ここもまあセオリーでいい。調停式当日になってからは緊張が張り詰めてきて、王と皇帝が探り合ってお互い譲らないやりとりの高度感が良かった。
終わってみれば個々の演出や台詞回しが良かったので最後まで観れたのだと思う。

でもやっぱりまだ展開の落としどころが普通に見える、全体的に役割が役割をそのまま演じるばかりでひねりが足りない。王道な落としどころにしたいならもっと大きな葛藤があったらその落差が引き立って良くなったのに。
「王の剣」隊の中でも特に複雑な主人公の内面を、彼に皮肉な台詞を言わせて煙に巻く形で表現して、最期には騎士道を貫かせる。特別さは感じないけど地道な演出の積み立てでニヒル主人公をカッコよく王道に見せるという手法はやっぱりぐっとくる。

そのやり方はいいんだけど如何せん主人公の背景がはっきり描かれないので完全に乗り切れない節もある。これはFF15の世界観の曖昧さにも原因がある。主人公達は王国のどこに怒っているのか? 故郷が乗っ取られた時王国も戦ってたのなら占領されたのは不可抗力だろう、帝国だけを憎むべき。故郷を見捨てるような王国に従っていられない、ということか。それくらい王都と故郷は民族的隔たりが強いってことなのかな。だったら初めから白旗揚げて帝国側に着いてても良かったのになんで王国を頼って逃げ込んだのか? つまり彼らの民族的アイデンティティの在りかがわからない。帝国がいきなり襲ってきたから難民になった? そんな野蛮な事するほど文明が劣っているようには見えなかったぞ帝国人。植民地にするなら土地や人手は維持したいはず…ああそこはロボでやるのかな… とか!(←納得しかけた)とにかく歴史や社会基盤が謎すぎて余計な思考がチラつきます。
余計な思考がチラつくといえば世界観デザインの現代日本感。あそこまで新宿や首都高を出すくらいならこれは現代日本の危機的状況を意味深に示唆するんだろうとか、対機械生物ってメタルギアっぽいから国際社会の問題を匂わすのかなあとか、映画見としては期待してしまうんですがこの視点もスルーです。○獣映画するのに都合がいいだけでした。
主人公のカッコよさを描きたいのならもっと中世ファンタジー寄りでも和風異世界でも成立はするのです。それでもこの歪な「現代風」ファンタジーを選ぶ理由は、映像技術の威力を最大限発揮したいからですね。考えてみたらこの規模のフルCGってあまりないし、実質制作が1年以内って早いのか遅いのかわからないがビビる。

普段映画を観る人でもたまにはこういうのもいいんじゃないかなと思える程度には面白いです。ストーリーはアレでも演出が子供っぽく感じないので。CGの顔をアメリカの俳優に当てはめて見てると気が紛れます。これ製作費が出てないんですよねー、本編ソフトの販促映像の側面があるから広告費と考えてソフト売り上げで回収しちゃえばいいんでしょうけど…興収は少なそう。
曇天

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