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ロバート・アルトマンのイメージズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.3
 まぁ何というか観るたびにコロコロと観たイメージが変わり続けるというか、一定しない映画ではある。思春期に初めて観た時には何が何やらさっぱりわからなかったのだが、今観ると随分小慣れてきて多少わかるようになった。ロンドン在住の女性児童文学作家キャスリン(スザンナ・ヨーク)が、ある晩正体不明の女からの不気味な電話を受ける。そもそもこの屋敷には何台電話があるのかと思うほど各部屋に電話があり心底不気味だが、それが眠りを妨げるようにひっきりなしに鳴るものだから、不眠症の彼女の眠りは著しく妨げられる。その上、その内容というのが今日は会社で会議と告げた旦那が今誰かとSEXをしていてという密告電話であり、はた迷惑にも逢瀬の現場の住所までが繰り返される。これが現実の応答なのか彼女の脳内だけでの応答であるのかは定かではない。というか明らかに混線した複雑なクリシェを縫いながらもアルトマンはどちらとも取れる描き方をしている。少女のような顔をして眠りこけるキャスリンの横に朝帰りした夫ヒュー(ルネ・オーベルジョノワ)が現れる。受話器を外していたら連絡出来ないじゃないかというがけたたましく鳴り続ければ当然眠れない。ディス・コミュニケーションな夫との対話の後、彼女は都市生活を諦め、いきなり別荘で暮らしたいと言い出す。

 然し乍ら別荘に繰り出したキャスリンは分裂し、肥大化する幾つものイメージに苦しめられる。何度も登場する幻聴・幻視の場面は旦那のヒューだけが本物というか実際の人間で、マーセル(ヒュー・ミレース)もルネ(マルセル・ボズフィ)もおそらく架空の人間だろう。というかクライマックスまで行くと、ヒューそのものも本当にこの世にいたのかどうかは定かではなくなる。私は精神科医ではないから、現代のパーソナリティ障害を70年代にもパーソナリティ障害と規定・分類されていたかどうかは定かではないのだが、ここでは『雨にぬれた舗道』と『三人の女』のヒロインと併せて、彼女たちは何かしらの妄執に駆られ、6人の分裂する登場人物たちのイメージに囚われたのだと類推することも出来る。ここでのキャスリンの応答には、目の前に見えるヒューとの応答もあり、亡霊との応答もある。然し乍ら今作にはある種の「痛み」を伴う場面が少なからず散見される。鹿の奇妙な標本オブジェやスパゲティにはさして興味を示さぬヒロインが、完結まで描くことにひたすらこだわった小説『ユニコーンを探して』のユニは1だと規定することも出来る。やがて登場する彼女のドッペルゲンガーは折り目正しく鏡に写り込む形で示される。自分自身と自分のペルソナとが何度も往来しながらヒロインを苦しめる。ヒロインの11歳くらいの時の姿を宿した少女はパズルはピースが1つ欠けていて完成しないという。それを別の場所から探し求めて最後のピースを填めた瞬間、2人の声は重なり終わりを告げるのだ。
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