YasujiOshiba

知りすぎた少女のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

知りすぎた少女(1963年製作の映画)
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バーヴァのBDボックスより。真夏のホラー祭り。とはいえ、これはジャッロ。いや、ジャッロというジャンルが出来る前の先駆けジャッロ。というか、『ローマの休日』から始まる観光映画として、ちょいとばかしロマンチック・ミステリー仕立てで、国際的なマーケットを狙いましょうぜという作品。

ところがどっこい、バーヴァが撮り始めたのだからそうは問屋がおろさない。いつもの見慣れたローマの風景が突然におどろおどろしい光と影のゴシック調に転じてゆくわけだ。これ、バーヴァの最後の白黒作品。ポスターがカラーだから記憶が混乱しそうになるけど、ものすごく表現力のある白黒なんだよね。ちなみに、このスペイン階段にある部屋の内部はセットだけど、同じセットが次のオムニバス映画『ブラック・サバス』の冒頭のエピソードで使われている。

主演のレティシア・ロマンはローマ生まれのイタリア人女優、本名はレティツィア・ノヴァレーゼ。彼女が演じるのはアメリカからの観光客なんだけど、まあ冒頭から少々やばいことに巻き込まれそうになる。無邪気な顔して、好奇心旺盛で、どんどんやばい方に進んでゆく。それがまた「おいおい」「だめだろ」「何やってんだ」と思わせる無邪気さ。誰かに似てるようなと思ってみてたんだけど、そうそう、まるでウィノナ・ライダーみたいじゃないですか。

またタイトルクレジットで流れてくる曲が印象的。なんだか知ってる声だなと思ったらアドリアーナ・チェレンターノなのね。曲は『Furore』(1960)。これ、破れた恋を忘れるために怒りに身を任せる歌なんだよね。だとすれば、こういうミステリーにはぴったりかもしれない。チェレンターノはプレスリー風だし、レティシア・ロマンはプレスリーと共演したことで知られているしね。

それにしてもバーヴァ、決して怖い演出だけの監督じゃないんだよね。不思議なユーモアがある。例えばオスティアの海岸。そもそも、ローマからオスティアにたどり着くまでのテンポがユーモラスなんだけど、その海岸で突然水着で海水浴するレティシア・ロマンとジョン・サクソン。

え、突然の水着かよと、あり得なさ加減に笑いをこらえていると、サクソンが急に怖い顔になる。『燃えよドラゴン』(1973)で空手の構えをするときのような怖い顔なんだな、これが。まさかおまえが犯人かと思わせた次の瞬間、なんとキスシーン。おいおい、こりゃもう笑うしかないじゃんね。

笑うしかないといえばラストシーンのピンチョの丘。まさか全てが夢オチか思わせるようなラストなんだけど、最後の最後に神学生たちがあるものを拾うんだよね。それを見て僕たちは「おいおい、やばいぞそれ」と思うわけ。こんどの事件はヴァチカンで起こるか、そんなラストなんだけど、これ、笑うしかないでしょ。

いやあ、これは面白い映画だわ。最高。こんな映画があったんだな。知らんかったけど、ブルーレイで発見できる幸せ。感謝感謝。
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