Kuuta

モーガンズ・クリークの奇跡のKuutaのレビュー・感想・評価

3.8
「収拾がつかない」

舞台は第二次大戦中。地元の出征パーティーに参加したトルーディは、酔った勢いのまま名もなき兵士と結婚、妊娠までしてしまうが、その晩の事は何も覚えていない。彼女はそれを隠そうと、自身に好意を寄せる幼馴染のノーヴァルとの偽装結婚を試みる。

当時は戦意高揚映画が流行し、米国でも産めよ増やせよが叫ばれていたそうだ。全編を貫く異様なハイテンションは、当時の国の空気の反映とも読める。

ジャンルは完全にコメディだが、冷静に考えると「戦時下の若者の悲劇」にもなりうる設定だ。本当の父親は一度も登場しないし、恐らく戦死しているのだろう。ノーヴァルはトルーディに良いように使われ、どんどん罪を重ねていく可哀想なキャラだし、そもそもトルーディは男の身勝手な性欲(或いは国家の横暴)の被害者だ。

全員がどこかに傷を負っているが、それを省みたり、癒したりする暇はない。「奇跡」とされるあるオチにも、色んな意味で後ろ暗さが付き纏う。しかしながら、とにかく話は前に進み、人は動き続ける。会話は早いし面白い。

男が転び、女が持ち上げる。アクションで物語は進む。脱獄しようとしないノーヴァルを、何とか動かすために木から落下する父親。戦時下でこそ悲劇に喜劇で立ち向かう、スラップスティックコメディに対するスタージェスの信念を感じる。

通りを歩きながら会話する場面が繰り返される。4分長回しで喋りっぱなしな序盤。通りはどこまでも続き、画面には通行人や車も入ってくる。

舞台を超高速で整える序盤が素晴らしいが、やや中弛みな印象。終盤のまとめ力には多幸感しかなかった。庭先で叫び出す父親を全力で抑えにかかる娘二人のシーンが微笑ましい。76点。
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