Kuuta

瞳をとじてのKuutaのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
3.8
何年後かに見返してまた考えたい。

多くの映画ネタが入っており、私はリオブラボーに脊髄反射のように喜んでいたが、テレビから聞こえた飼い主の声に反応する犬に「あ、俺はこの犬と同じなんだな」と思ったりした。

面白かったけど、劇中劇だけで観たかった。冒頭のあの空気に全力で浸っていたのだが(家のショット、徐々に彫刻に寄る編集、窓が開いて光が差し込む部屋…)、もはやああいう映画を無邪気に楽しめる時代ではない、ということか。蛍光灯に照らされた冷たい画面、普通の切り返しの連発で「俺のエリセがこんなに切り返すはずがない」という不思議な焦燥感を味わう。

次第に切り返さずにベンチで隣り合う、同じ方向を向く動作が増えてきてなるほどと思いつつ、ラストシーンで全員が同じ方向に座る。画面から見つめられる正対切り返しを経て、老いを受け入れ目を閉じる(繰り返される暗転)。

音楽が受け継がれた劇中劇の父娘に対し、現実の父娘が、映画を介した意識の共有を成功させたかは明示されない。父は目を閉じる。結構シビアな話では?と思う一方で、アナのセリフなど、ちょっとあざとくも感じる。この距離感は、私がエリセのリアルタイム世代ではないことにも起因しているのだろう。

「君たちはどう生きるか」に近い感覚で、メタ要素を入れずにファンタジーに振り切って欲しかった、というのが1番の感想。映画が現実に侵食し、過去も未来も、その区別に意味がなくなる。そうした映画の魔法は、エリセが30年ぶりに新作を撮っている、この状況だけで十分表現できていると思うからだ。
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