すずき

マルコヴィッチの穴のすずきのレビュー・感想・評価

マルコヴィッチの穴(1999年製作の映画)
4.1
売れない操り人形師のクレイグは妻のロティに諭され、企業に努める事にする。
だがその企業は、エレベーターを7階と8階の間で止めないと入れない、7 1/2階にある、異様に天井が低い会社。
ある日彼は、会社に隠しドアがあるのを発見する。
そのドアの先はなんと俳優ジョン・マルコヴィッチの中。
マルコヴィッチの目を通して、15分間の制限時間付きで彼の生活を覗き見る事が出来た彼は、それを片思いの美女マキシーンに話してしまう。
2人は「マルコヴィッチになれる体験」を売り物に起業する。
だが、それを体験したロティは自分の中に秘められていた男性性に気づき、あろうことかマキシーンに恋をしてしまう…

「脳内ニューヨーク」「エターナル・サンシャイン」のチャーリー・カウフマンの初長編映画脚本作品。
もうすでに天才的な発想と奇想天外なオリジナリティは完成されている。
まずマルコヴィッチという俳優のセレクトが絶妙。
大物映画俳優なんだけど知らない人は知らない、微妙な立ち位置(失礼)。
劇中でも「宝石泥棒の映画の人」と言われ、誰か(ブルース・ウィリス?)と勘違いされている。

そして、その「マルコヴィッチの中に入れる穴」というアイデアを単なる出オチの一発芸にせず、それを広げていく脚本の展開が素晴らしい。
それを商売にする→妻がそれにハマる→レズビアンに覚醒→主人公と妻と美女の三角関係+そのトライアングルの中心にマルコヴィッチ
…というちょっとどうかしてる人間関係。やっぱカウフマンはスゴいわ。

しかもコメディに見えて、しっかり哲学的な部分もある。
自分じゃない誰かになりたい、というのは多くの人が持つ願望なのだろう。
俺だってなれるもんなら美少女になってみたいし、オッサンが美少女アバターでVtuberになったりするのも、ある意味「マルコヴィッチの穴」。
もっと拡大解釈すると、本当の自分を偽って、よく見せようとする…例えば女の子にモテたいが為にちょっとカッコつけたりだとか、見栄を張ったりだとか、そーゆーのも「マルコヴィッチの穴」なのかも。
しかし劇中で最も悪女な、いわゆるファム・ファタールであるマキシーン。彼女だけは一度も「マルコヴィッチ」をする事はない。
自由奔放で時には誰かを傷つけ裏切る彼女は、劇中で最も自分の事が好きで、自信のある女性なんだろう。
紛うことなき身勝手な悪女なんだけど、そーゆー強さ強かさって素敵でもある…。