すずき

アナザーラウンドのすずきのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
2.6
高校教師のマーティンは、妻との距離を感じていた。
息子2人にも父の威厳を保てず、生徒達には教えるのが下手で退屈な授業、との評価のダメ親父だ。
だが教師仲間の3人と飲み会で酔っ払うと、その事も忘れて楽しく過ごす事が出来る。
仲間の1人が言った。
「血中アルコール濃度0.05%を保っていれば、いい影響が出て仕事も人生が上手くいくそうだぜ……俺たちで試してみないか?」
こうして酔っ払い教師4人が誕生するが、実験は段々とエスカレートしていき…

ダメ親父が酔っ払い、それによって何故か人生が上手くいくコメディ……ではない。
TPOを考えない飲酒に待っているものは、当然ながら破滅である。
薬物ダメ絶対啓発ビデオに近い内容だと感じた。
前半こそアルコールの力なのか、割とポジティブな影響が描かれるが、辛い事が描かれる後半の方が面白い。

ポスターでは青空が描かれているが、本編中のデンマークの空は常に曇り空で、薄暗い。
それが暗い未来を暗示しているようで、表面的には明るい内容のシーンでも、楽しくはならないのは意図的なのか?
家の中も暗い。まぁそれは欧米人の家では普通な事だけど。

日本とデンマークの文化の違いなのか、疑問符が付く描写がいくつか。

・先生に文句を言いに来たとはいえ、保護者の態度悪過ぎ!
言葉は穏やかで、マトモな人物のようだが、ラフな服装で机の上に堂々と座る!

・進学校のようだが、クラスの生徒の飲酒率100%。

・ビールの推奨量は男性14本、女性7本だそうな。
……本!?杯でも多過ぎだと思うし、男女差も大き過ぎないか?
体格差は影響するだろうけど、2倍も違うかなぁ?

・一晩でビール50杯飲んだは盛ってるだろ!?水でも50杯飲んだら死にそう。

・子供達を連れてキャンプ旅行、別々のテントとはいえ、そこでセックスするか!?
ちなみにそのシーンは血中濃度0%のシラフです。

・エンドロール、『デンマークでは飲酒可能な年齢は16歳以上である』との字幕表示。
それ、最初に表示するべきじゃないかな!?

そして、この映画で描かれる飲酒についての是非にも疑問符。
前半では0.05%の血中濃度のまま仕事と生活をし、それがなんと全て上手くいってしまうのである。
最終的に彼らはエスカレートした飲酒により色々と失ってしまうのだが、それだと良い程度で酔っ払うなら仕事も生活もOKだと推奨しているようにも受け取れる。
コメディならまだしも、真面目なドラマ作品では否定した方がいいんじゃないかな?

他にも、面接型のテストでは事前に酒を飲んで不安を消して臨め、とアドバイスされた生徒も、それで上手くいったかのように描かれる所も問題。
10代の子供に慣れない酒を飲ませたのだから、そこはベロンベロンに酔っ払ってしまい大失敗、教え子の人生を台無しにしてしまう、とそこまで描いてしまっても良いと思う。

ラストシーンも取ってつけたようなハッピーにより希望的とも、同じ事の繰り返しで破滅を予感させるとも受け取れる曖昧なエンド。
これも意図的なのだろうか?

多分、デンマーク人の(監督の?)飲酒に対する考え方は、日本人の(私の?)それと比べてだいぶ甘いのだろう。
主義主張の違いで作品評価を落としたくはないけれど、其処此処で疑問符が浮かび、あまり楽しめませんでした。