きゃんちょめ

ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生のきゃんちょめのレビュー・感想・評価

4.9
最初の口論だけで家庭や母親について説明するのも面白い。しかもこの口論だけで、兄は死者をバカにしてて、バーバラはリスペクトしてるのが分かっちゃうんだよね。てか、フィルム BY トム=サビーニ、ディレクティド BY ジョージ=A=ロメロって画面に出た瞬間に俺はもう叫び声をあげてるからね。そして車の中から降りてくるバーバラの初登場シーンだけでそのオシャレさに心を奪われた。なんてかわいい女の子なんだ。ジューディス=オディアっていう無名の女優なんだけど、丸メガネがかわい過ぎるーーー!

最初に現れるゾンビにジョージ=A=ロメロはなんて言わせてるか覚えておいたほうがいい。『Sorry, Very Sorry』って言わせてるんだよ。これがゾンビの一番最初のセリフだったんだ。これだけは絶対に忘れちゃいけない。ゾンビたちは申し訳ないと思いながらも人を食べてるんだ。そのあとも、前から見たら普通のサラリーマンに見えるやつが、後ろからみたら全裸だったり、車のブレーキを解除することで、後ろ向きにゾンビから逃げたり、逃げるときは必ずコケることになってたり、とにかく最初のタイトルロールがまだ出ている5分間だけで一瞬で引き込まれてしまうんだよね。ゾンビ映画はすごーくたくさんあるけど、そのうちのどれだけが、この最初の5分間に勝てるんだろうか。やっぱり元祖が最強です。強調しとくけど、まだタイトルロールが出てる段階だけで俺はもうすでに満点出してるからね。音楽やら急展開やら、全部完璧なんだよ。

動物の剥製がたくさんある家っていうのもサイコみたいでかっこいいし、上から血が落ちてきて、なにかなって思って上を見たら人間の手首が落ちてきて、それにびっくりしてたら今度は太った血だらけのおじさんが落ちてくるシークエンスも最高。バーバラが怖すぎて途中から泣きながら大爆笑してしまってるのもすごい分かってるって感じだった。さすがロメロ。あまりにも怖いものをみるとだんだん人間って面白くなってきちゃうんだよね。ベンも最後笑ってたでしょ。もはやバーバラとか笑ったり泣いたりでしゃべれなくなってきちゃってて本当にこわいことが伝わってくる。最初はゾンビを1人殺すたびに、手で十字架を切ったりしてるのに、だんだんそんな余裕すらなくなってくる感じがとてもツボです。

1968年の映画で黒人のベンを最初にかっこよく撮るのってさすがロメロだよね。

主義主張の違いで地下室にこもる組と上でバリケード作る組に分かれるんだけど、ただひとり勇敢にショットガンをかついで闘うことを選ぶバーバラが一番かっこいい。ショットガンをぶっ放した後のバーバラのこのセリフがこの映画の中で一番かっこいい。だから引用して訳しておきます。

Whatever I lost,I lost long time ago.I don't plan on losing anything else. You can talk to me about losing it when you stop screaming at each other like a bunch of two-year-olds.

『私が何を失ってるとしても、失うものはもうすでに失ってるのよ。私はもう他になにも失うつもりはないわ。あなたたちは、私が正気を失ってると言うけど、そういうあなたたちはどうなの!お互いに二歳児みたいにお互いのことをなじりあうのはやめなさい!』


おれ『くーーー!バーバラかっこいいいーーーー!』


まぁ、誰もちゃんと動かずに早とちりしてどんどん自滅していくあたり、ほんと、ゾンビって、メディアだよね。ゾンビによって描きたいのはゾンビじゃなくて、ゾンビというメディアを通すと見えてくる人間存在の本質的愚かさなあたりが僕がゾンビ映画を愛してやまない理由です。終盤なんか、家をこじ開けようとするゾンビと家をこじ開けようとするベンが重なって見えるように撮られていて、ゾンビと人間はそんなに変わんないっていうメッセージがこの最初の作品から生きてることがよくわかる。ベンとクーパーが撃ち合うシーンなんかもう人間のほうがよっぽど醜くて見ていられなかった。俺たち資本主義社会に生きる市民は本当は人間を食べて生きてる。それに気づかせてくれるのがゾンビ映画だ。

They're us.
We're them and they're us

という最後のバーバラのセリフはそれを端的に表している。

ゾンビを楽しげに山のように積んで、そこに火をつけて楽しむ人々と、それを静かな目で見つめるバーバラのカットが、最後のエンドロールで交互に映されるあのシーンを俺たちは絶対に忘れてはいけない。あの静かに僕たちを見つめるあの目。あの目こそが、知性なのだ。それを絶対に忘れてはいけない。



ゾンビが残酷だから教育に悪いって?
本当にそうかな?
そういう批判をする人は、一度でもこの『ナイトオブザリビングデッド』を見たことがあるのかな。
僕は、大切なことをゾンビで学んだ。
きゃんちょめ

きゃんちょめ