よねっきー

恋のドッグファイトのよねっきーのレビュー・感想・評価

恋のドッグファイト(1991年製作の映画)
4.8
戦争と初恋。嘘ばっかりのこの世界で、偽りのない本物って言えるものって一体何なんだ?

「一番ブスな女の子をナンパしてきたやつが勝ち」っていう最低な男子ノリから始まる物語は、凡庸な恋愛映画のようにも見えるけど実はおそろしく繊細。ローズがエディに傷つけられる様子は、エディが知らず知らずのうちに社会に傷つけられる構図と重なる。賢くて慎重だからこそ戦争を知らないローズと、馬鹿で大胆だからこそ戦争を知っているエディの対比とかめちゃくちゃ上手い。銃を握ったことしかないやつと、ギターを握ったことしかないやつと、果たしてどっちが偉いだろうか? 物語に散りばめられた些細なディテールは、大味なストーリーラインに反して意外と裏側で緻密に繋がっているように思う。

戦地へ赴くバスの中、寝てる2人の蜂を横目にエディとバージンが会話を交わすシーンに全てが詰まってる。二人ともこの世界が嘘っぱちだってことには気がついているんだけど、エディはそれを受け入れられない。バージンが人を騙すのは、自分もまた社会に騙されていると知ってるからだ。だけどエディは違う。エディは自分が社会に騙されてるなんて知らないからこそ、人を騙してしまうのである。彼の胸中で有耶無耶になった善悪は、ビリビリに破かれた紙切れになってバスの窓から空を舞う。

そんな嘘だらけの世界でも、腕の中の4匹の蜂と、無言の二人が交わす抱擁だけは、間違いのない確かなものとして映される。いつの時代も、人を失う痛みと愛だけは、決して「嘘っぱち」なんかにはならないのである。夜明けの街を駆け抜ける、無垢の蜂一匹。
よねっきー

よねっきー