一人旅

動くな、死ね、甦れ!の一人旅のネタバレレビュー・内容・結末

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

第43回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール。
ヴィターリー・カネフスキー監督作。

二次大戦直後のロシア東部の炭鉱町を舞台に、少年ワレルカと少女ガリーヤの青春を、家族や町の人々との関係を交えて描いたドラマ。
ジャンルで言えば青春ドラマになるのだろうが、一般的な青春映画に見られる、これまでの生き方の見直しやこれからの人生の展望や希望を感じさせる物語は存在しない。雪の白が映えたモノクロの寒々しい映像の中に散見される戦争の傷跡や人々の苦しみ。抑留された日本兵が強制労働に従事させられていたり、釈放されたいがためだけに男に妊娠させてもらうよう必死に頼む囚人の女の哀れな姿が印象的だ。ワレルカの家庭環境も幸福なものとはかけ離れていて、父親はいないようだし母親は他の男と逢瀬を重ねる。母親が女になる瞬間をドアの隙間から目撃したワレルカの孤独と悲しみがひしひしと伝わってきて、もはやワレルカには安心できる居場所など存在しないことが示される。ガリーヤ以外の他者に相手にされないワレルカが起こす数々の問題行動は、閉鎖的で陰鬱とした社会に対する反抗心がきっかけになっている。現状抱える不満と孤独の行き場所を失い、自身ではどうあがいても変えることのできない非情な現実に少しでも変化を求めてささいな反発的行動を取ったのだ。だが悲しいことに、そうした少年の悲痛な叫びとも取れる行動に対しても、社会は決して寛容的ではないのだ。ワレルカとガリーヤは為す術なく社会が望む通りの悲劇的結末を迎えてしまう。それは決してワレルカとガリーヤ、二人だけにとどまらない。祖国に帰還できない日本兵、自由の身を得られない囚人たち、父親を亡くした(?)以後幸福を得られない母親の姿。小さな炭鉱町に生きる人々は皆目の前の現実を変えることが許されないのだ。
本作を観終えてタイトルの意味が分かった気がする。『動くな、死ね、甦れ!』は役者に対する監督の命令なのだ。役者が映画の中で取る行動と運命に選択権が与えられないように、町の人々もまた自身の現実を変えることはできないのだ。
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