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動くな、死ね、甦れ!のcamusonのレビュー・感想・評価

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
3.7
早稲田松竹で同監督作品を3本立てでやっていたのですが、
さすがに勤め人が平日に3本は無理なので、
21:00 からラスト1本の本作のみ見ました。

前情報がない状態で見たのですが、
白黒映画で、かつ、フィルムの痛みが激しいことから、
1930~40 年代の作品と思いこんで見ていました。

後で調べたところ、1989年と比較的新しい作品でした。
作者(1935年生まれ)の幼少時の風景や空気を再現するために、
その時代に入り込んで撮影したかのように仕立てる。
トリッキーとも取れますが、それを凌駕する、映像の凄みを感じました。

主人公の少年が住むのは、炭坑と収容所の村。
地面はぬかるんで、泥の上に人が集まり暮らしていて、
舗装された道はなく、自動車もなく、
辛うじて他の町に通じる鉄道があるだけです。

住人は、汚れた長屋に、寄り集まって暮らしており、
人は多く、叫び声や喧噪はあれど、活気がまるでない。

この「不毛」感は、凄いです。

主人公も通っている学校は意外と立派でした。
公権力の出先として力を入れた結果でしょうか。

村の外れでは、抑留された日本兵が強制労働をさせられていて、
よさこい節や、炭坑節が聞こえてきます。
おそらく作者の望郷には欠かせないものなのでしょう。
よどんだ世界の中で、どこか優雅で達観した響きを感じました。

そんな中、主人公の少年は、鬱屈感からか、
学校のトイレの汚物槽にイースト菌を入れて溢れさせたり、
列車を脱線させたりの問題を起こします。
その都度、一緒の長屋に住む少女に助けられます。
この少女は、非常に賢く、したたかに生活に順応していて、
なかなかの人物だなあと感心してしまいました。
この作品の中では、唯一の光と言える存在です。


時代の停滞した陰鬱な空気を再現して、
フィルムに封じ込めたことは評価できるのですが、
娯楽としてみると、正直、それほど面白くはないです。
娯楽性の高いロシア映画も見てみたくなりました。
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