甘口パンダ

舟を編むの甘口パンダのネタバレレビュー・内容・結末

舟を編む(2013年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画は、辞書編纂にまつわる悲喜こもごものお仕事物語です。そして、ひとりの青年馬締光也(まじめみつや)の成長物語です。また、日本語や辞書への興味を駆り立てられる作品でもあります。
どの観点から楽しんでも見応えがありますし、きっとお気に入りのシーンや気になる日本語が見つかると思います。


馬締はコミュニケーション能力が低く、心的交流は、自分にはとうてい無理なことだと、なかば諦めていた人物です。しかし、辞書編纂をとおして人とかかわることで、自分の殻を破る第一歩を踏みだします。最初のひと言「いい天気ですね!」は、とても愛おしい。そして、彼のコミュニケーション能力獲得までの道のりは、辞書『大渡海』の編纂過程と重なりあい丁寧に描かれてゆきます。さまざまな困難を乗りこえつつ、13年の時間を紡ぎながら。

ラストで彼は『大渡海』の初版を完成させ、人生の一区切りを迎えます。きらきらと輝く凪いだ海のとなりで、馬締が香具矢に伝えた「香具矢さん、これからもお世話になります」。

この「これからもお世話になります」という挨拶を聞いたとき、美しい日本語だと思いました。この映画で1番好きな台詞、1番好きなシーンです。
ほかの日本語にするのであれば、

辞書は完成しましたが、これからも改訂作業が続きます/
これからも辞書を作り続けます/
これからも心配をかけると思います/
今までありがとうございます/
いつもありがとうございます/
これからもよろしくお願いします/
愛してます/
そばにいてくれてありがとう/
これからも一緒に生きていきましょう/

まだ他にも変換できるかもしれない、“万感”の思いをのせた美しい挨拶のことば。沢山のキラキラに分かれて、目の前の海に流れていくように感じました。

私にとっては、人に話しかけることが出来なかった主人公が、豊かな日本語で愛する人と向き合えるようになる軌跡に感動した映画でした。“辞書は言葉という大海原を航海するための舟である”という名文句も聞かれましたが、彼の人生も、さながらひとつの大航海を成し遂げたといえるでしょう。

最後に香具矢はいいます。「みっちゃんってやっぱり変わってる」。伝わる気持ちは“大好きよ”です。 私も言いたい。

「みっちゃんってやっぱり変わってる」!



いい映画でした。たぶん何時間でも語れる映画に出会ってしまった。仕事に対しても、言葉に対しても、人生に対しても、真摯な彼らを見習って。私だけの大航海をしなくては。
甘口パンダ

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