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塀の中のジュリアス・シーザーの一人旅のレビュー・感想・評価

4.0
第62回ベルリン国際映画祭金熊賞。
パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督作。

ローマ郊外の刑務所を舞台に、一般客に披露する演劇実習に臨む囚人たちの姿を描いたドラマ。

『父/パードレ・パドローネ』(1977)『カオス・シチリア物語』(1984)『グッドモーニング・バビロン!』(1987)のタヴィアーニ兄弟によるドキュメンタリータッチのドラマ。実在のレビッピア刑務所を舞台に、演劇実習としてシェークスピアの「ジュリアス・シーザー」に出演する囚人たちの姿を描く。なんと、囚人役は服役中の“本物”の囚人を起用。実在の囚人が実在の刑務所で演劇の稽古&本番に臨む様子をリアリティたっぷりに描く(ただしドキュメンタリーではない)。このような、現実と映画が不思議とない交ぜにされた作風はアッバス・キアロスタミの『クローズ・アップ』(1990)を彷彿とさせる。ウソとホントの境界線が曖昧で、まさに芸術ポイントの高い意欲作。ちなみに、劇の本番シーンはカラーだが、稽古シーンはすべてモノクロという独自の映像センスも印象に残る。

『es [エス]』(2001)のように、与えられた役柄に同化してゆく囚人たち。シーザー役を与えられた囚人はシーザーになり切り、ブルータス役の囚人はブルータスになり切る。囚人たちは刑務所内のあらゆる場所(中庭・図書室・廊下etc...)で稽古を行う。それも囚人らしからぬ真剣さで。しかも、それぞれの稽古が「ジュリアス・シーザー」の物語に順番通りに沿っているため、まるで刑務所が古代ローマ帝国に変貌を遂げたような感覚に陥る不思議。背景は完全に刑務所だし、囚人もラフな現代的服装なのだが、稽古があまりにも緊迫感に満ちているのでそうした錯覚を生む。囚人たちによる本格稽古が行われる最中、上方から看守がその様子を見物したり、稽古中の囚人が舞台のセリフ以外の言葉を発するなど、幾分の“現実”が入り込む演出が秀逸。

囚人の一人が最後に呟く「芸術を知ってから、この監房は牢獄になった」のセリフが胸に迫る。不自由と芸術の相反する関係性。刑務所という不自由の中で行う演劇(=芸術)は、芸術に目覚めた囚人の芸術欲を完全に満足させるには至らないのである。

現実と映画が絶妙に交錯した異色作。囚人たちの演技も真に迫る。
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