みかんぼうや

ザ・マスターのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ザ・マスター(2012年製作の映画)
3.7
久しぶりのPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)作品。やっぱりこの監督が作る“不穏な空気感”、大好き。そして、PTA作品といえばジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)の音楽。こちらも変わらず作品の不穏さをさらに引き立てていました。

実在するアメリカの巨大宗教団体のサイエントロジーの創始者が主人公ザ・マスター(教祖)のモデルであると言われている本作。フィリップ・シーモア・ホフマンが演じるこの教祖と彼との出会いをきっかけにその思想に傾倒していくフレディ・クエル(ホアキン・フェニックス)の2人の関係性が作品を通して描かれています。

ただ、入り口(出会い)から出口(別れ)までの分かりやすい一本筋のストーリーとして作られている、という印象はあまりありませんでした。どちらかというと、2人の関係性を描く転機やさまざまなトピックを断片的に記録し、それらを繋ぎ合わせた映像記録の集合体のように見えました。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(TWBB)」あたりと比べると、物語性は弱く、物語の展開に惹きつけられるというよりは、怪しさと脆さを内包する登場人物たちのキャラクターや言動そのものを楽しむ作品という印象が個人的には強かったです(ただ、個人的にはキャラクターの強さも「TWBB」が勝っていますが)

特に、戦争によるPTSDに苛まれ、狂暴かつ衝動性が強い一方、孤独を感じ続けていたフレディが、自身がすがることができる拠り所を見つけ宗教に傾倒していく様子と、それでも制御が効かずに衝動性が爆発する様が見どころです。

そして、そのフレディを実に見事に演じ切ったホアキン・フェニックス。その孤独な男の衝動的で不安定でどこか脆さを感じさせる言動。そこには、明らかに後の「ジョーカー」が見えました。もし本作を先に観ていたら、「ジョーカー」のインパクトは落ちていたのではないかと思うほど、本作の彼の演技もまた、フレディ・クエルという人格が憑依していたように思います。

同じPTA監督の「TWBB」や「ファントム・スレッド」に比べると、後半の展開は個人的に若干勢いが落ちたようにも感じましたが、全体に漂う陰鬱さと人間の心の隙間にある闇をえぐり出すような作風は流石PTA、と思わせる面白い作品でした。
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