せんきち

フライトのせんきちのネタバレレビュー・内容・結末

フライト(2012年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

秀作。


制御不能になった航空機は機長ウィップ・ウィトカー(デンゼル・ワシントン)の奇跡的な技術で不時着に成功した。乗員2名、乗客4名の死者を出すも奇跡的な着陸に機長は英雄となった。しかし、彼の血液から大麻とアルコールの反応がでた。彼は重度の大麻、アルコール依存症だったのだ。英雄から一転重度の過失致死に問われ終身刑の可能性が出てくる。会社は彼に敏腕弁護士をつけるのだが...


実話をベースにしてるが予告を観て敏腕弁護士役のドン・チードル(こいつが出てる映画は大体当たり)とデンゼル・ワシントンの会話を観ててっきり法廷劇かと思った。でも違った。もっと主役ウィトカーの内面に関する映画だった。結論をいうなら”嘘”についての映画だ。


血液検査でアルコールと大麻の反応が出てから彼の生活は一転する。終身刑を逃れるため、生き残った生存者に偽証のお願いをするウィトカー。彼の運転でなければ助からなかった人達なのだ。

半身不随になった副操縦士に偽証のお願いをする時、信仰心の厚い彼と彼の妻から神への祈りを頼まれる。心底嫌な顔をしてお祈りをするウィトカー。

マスコミに追われ生活は荒れていく。同じアルコール依存症の彼女とも上手くいかなくなっていく。彼女の所属するアルコール依存症友の会に参加しても居心地は悪い。
自分はアルコール依存症と思ってないからだ。アルコール依存症患者の「嘘をついてはこの会にはいられないのです」というスピーチを背に退席するウィトカー。


この2つのシーンがクライマックスの伏線になる。こっから先完全にネタバレします。





クライマックスの審議会。審議会前なのにウィトカーは飲酒して倒れてしまう。悪友(ジョン・グッドマンw)の大麻で一時的に回復する。審議会は会社と弁護士の働きで有利な方向に。最後の質問「機内に残っていたウオッカは誰が飲んだものなのか」乗客が飲めない状況で飲めた可能性は2人。亡くなった女性乗務員とアルコール反応陽性だったウィトカーだけ。しかも亡くなった女性乗務員にはアルコール依存症のセミナーに参加していた履歴があった!彼女に罪をなすりつければ全て解決する!!



審議官の「このウオッカは誰が飲んだと思うか」という質問を何度も聞き返すウィトカー。小声で「神よお力を...」と呟き「私が飲みました。私はアルコール依存症です」と告白する。


次のカットは刑務所。「後、たった一つ。たった一つの嘘をつけば俺はここにいなかった。きっと今でも機を操縦してただろう。でも不思議な話だが、俺はここに来て自由になった。嘘から解放されたんだ」(大意)と囚人相手に話すウィトカー。


自分の弱さ故、アルコールと大麻に逃げ、周囲にそして何よりも自分に”嘘”をつき続けていたウィトカー。彼は罪を償うことによって”嘘”から解放され自由になったのだ。信仰心のない男が最後に神にすがるのは非常に感動的だ。こんなに内省的な映画とは思わなかった。予告の印象と全然違うわ。

最後の最後で”嘘”がテーマだったと分かるのはイーストウッドの「J・エドガー」(これも好き)と一緒だなあ。

ただ、この内容で2時間半はちと長い。アルコール依存症の彼女との顛末をもう少しカットすれば良かったんじゃないかと思う。
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