このレビューはネタバレを含みます
ダッチワイフだった人形が心を持つ物語。秀雄の中にももちろん愛情のようなものはありながらも、意思の不在を象徴するのが人形で、尊厳とか女性の解放、命のあり方みたいなものがテーマ。
心を持ちメイドの服を着て街に出て言葉を、人を学ぶ。外の世界を知る自由、働く自由、恋する自由。気になっていた継ぎ目を消した時のうれしそうな表情。自分のルーツを考える。男性のイヤらしい目線が皮肉的。なんだろう、心の内側からジーンと温かくなる感じ。そっと応援したくなる。
「歳をとるってどういうこと?」
「誕生日?」
「彼女がこの世界に生まれた、記念の日」
蜻蛉は親になると1日か2日で死んでしまう。ただ産んで死ぬだけの生き物。という老人の台詞も象徴的。
「いのちは…え〜っと、いのちは…」
「いのちは自分自身で完結できないように作られているらしい」というシーンで卵かけご飯、めっちゃ上手い。
「いのちはその中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ」
「時に疎ましく思うことさえも許されている間柄」
穴が空いて萎んでしまったのぞみに空気を吹き込んであげた純一のシーン、どこかエロティックででも確かな愛が詰まってて美しかった。純一の息が吹き込まれた身体、と考えるととても愛しく思えるだろう。
「歳をとるの。わたしね、歳をとるの」
「き、奇遇ね」
新しい「のぞみ」の存在。
「わたし、心を持ってしまったの」
のぞみは昔の彼女の名前。その代用品。かけがえのない自分とは。みんな心に空虚を持っていたりする。おじいさんと触れ合うシーンも素敵。
「昔からね、手が冷たい人は心が温かいと言うんだよ」
生みの親との出会い。自らのルーツ。
「空気を抜きたいんだ」純一の願い。
お互いの空気を抜いては満たす。純一に息を吹き込むことができなかったのぞみ。
それぞれの人生、それぞれのいのち。息吹を感じながら、生きてゆくこと。