父母ともに癌

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったかの父母ともに癌のレビュー・感想・評価

4.5
アメリカ空軍基地指令が発狂したことから全世界核戦争が起きそうになり、それを止める為に奔走する話。

面白かった。
最初のシーンから飛行機の交尾。これは給油をしているところらしい。

その後、戦争を始めたい軍人。そしてその戦争を止めたい副官。指令を受けた飛行機には降って沸いた戦争にやる気を出す末端の軍人。ワシントンの作戦室、指揮をとるのは戦争をすれば国民が死ぬからやりたくない大統領。大統領の側にはイヤに攻撃的な軍人。ソ連の思惑。

これらそれぞれの場所で物語が同時進行していくのだが、それぞれが絡み合って悪い方向に悪い方向に進み、徐々に世界は滅亡へと向かっていく。
負の連鎖コメディと言っていいと思う。

一番笑ったのは、攻撃指令を受けた爆撃機の機長がおもむろに倉庫みたいなところからカウボーイハットを取り出して気合い付けか何か知らないけれど被って仕事に戻るところ。
ここに何のツッコミも無いのがまた気持ちいい。反・福田雄一といいますか。
このコングという爆撃機の機長は攻撃命令に疑問を呈すなど常識人っぽく序盤は描かれている。
が、このカウボーイハットを被ることによって、更に言えば周囲の部下たちがツッコまない、つまり当たり前のこととして受け止めているという反応をみて、コング機長の
「いざと言う時にカウボーイハットとかを被ってしまうタイプの(おそらく南部出身の)アメリカ軍人」
という狂気を観客は知ることになるし、実際コング機長は狂気を増していき、愉快な発狂状態で物語の結末を左右することになる。
笑うポイントであり、キャラクターの掘り下げであるという素晴らしいギャグだと思う。

こういう狂気が発するおかしみというのを映画で演出する際にはツッコミは本当に不要。そういう意味でこの映画は素晴らしかった。
ボケたりツッコんだりというようなお笑いの言葉を使うのを烏滸がましく思うくらい「おふざけ」が注入された映画を邦画で何本か観たのでこの映画の姿勢は非常に好ましく感じた。

一事が万事この調子で笑いがちりばめられている。
狂気の空軍基地指令リッパーの妄言も垂れ流しなら、作戦司令室の面々の癖も放り出されっぱなし。それぞれのキャラクターが狂気をはらんで面白いという本当に愉快な映画。でもちゃんと現実味があっておふざけになってない。このバランス感覚はすごい。

ストーリーは兎に角悪いことに悪いこと、不運に不運が重なって地球が滅亡していく。このストーリーの送り方もスムースでラストに向かってテンションがあがっていくというきれいな脚本。

ラストは車いすのストレンジラブ博士が、人類滅亡を防ぐナチスの優生思想じみたハーレム計画を熱弁して「立ち上がる」という。
飛行機の交尾で始まって、主人公が「立つ」ところで終わるという。人類滅んでるのに。下ネタ。爽快。
いいコメディでした。非常に好きです。
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