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風立ちぬのHondaカットのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
3.8
『風立ちぬ』

面白かった。けど。

スピルバーグ先生と並ぶ当代随一の変態(褒め言葉)宮崎駿監督。その矛盾性を語るほど人間的内面は知らないが、ここまでリアルの話をやるとこの人が映画の中に自分の本音と建前の両方をありったけぶっ込んでいるのが、より浮き彫りになってくる。例えば、これだけ分かりやすく反戦を歌いながら、大好きな兵器・ミリタリーを嬉しそ〜に詰め込みまくっている…など。ここまでパーソナルな二面性を標示しながら100億円稼ぐ監督は、宮崎駿とスピルバーグだけだ。

おそらくは千と千尋以降、ストーリーを展開させていく事にどんどん興味が無くなっていて、今回の話の進み方も同じく。何かが起きたからその後それが…という語りは全くせず、シーンもブツ切り、時間経過もかなり大胆に飛び、やたらディティールまで描くエピソードもそれ自体が独立してあまり大筋と関係ない。【登場人物の何か】を映画的に描き、それ自体を物語を繋ぐ(観ている人が補間する)接着剤にしているような感じ。それを極致まで純化させていた『ザ・マスター』と同じ方法論だと思う。

出てくる人はすべて美しい。理想を描いているのだと思う。その意味で、宮崎駿は映画という夢を見ている。現実では得られない個人的理想を映画に託している。それの良い悪いは置いておきたいけれど、それが個人的すぎて少なくとも僕は共感ができない。監督の好みなんだ…という文脈でしか見れなかった。

画や動きのクオリティは言うまでもないが、結婚式のシーンの美しい画とその動きと音の静かさは、またそれを美しいと思う心こそ、日本の美そのもので、素晴らしいなと思った。

最後に、庵野さんの声は、いやとても良いし狙いもなるほどと思うのだけど、他でもない庵野さんのキャラクターが強すぎるので、ご本人の顔が常に出てきてしまうのは、アニメ映画としては成功しているとは言えないと思うんだけどなぁ。

なんだかんだ、この作家性の強すぎる映画監督の作品が日本の国民的アニメとして100億円を超えるヒットになる、というのが、不思議だし、希望だし、少し怖いと思うのが毎度の事なのです。
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